第1章 プロローグ
貴方さえいなければ。
もう何度となく聞かされ続けた発狂にも近いそんな言葉。
僕のお母さんは僕が大嫌い。
保育園にいる僕と同じぐらいの子たちはみんなお母さんに頭を撫でて貰ったことがあるって言うけれど、僕はそんなことして貰ったことがない。
たんに覚えてないだけなのかもしれないけど、僕は弁当を作って貰ったことも、優しく声をかけて貰ったことも、お洋服を洗濯して貰ったこともない。
大好きなお絵かきも家ですれば誰も褒めてくれない。
足りないものはぜんぶぜんぶ自分で補うしかない。
お母さんは夜遅くなってもなかなか帰ってこない。
だから、僕はいつも一人で家に帰る。
保育園の人たちはとても優しいから僕が一人で帰ろうとするのを見るといつも、大丈夫?と声をかけてくれる。
僕はお父さんが嫌い。
僕のお父さんは怖い人だ。
何か気に入らないことがあるとお母さんを物で殴ったり、蹴ったりする。
僕にも、する。
とても熱くて痛くて苦しくて、やめて欲しいのに、やめてって言っても止めてくれない。
だから、お父さんも僕のことが嫌いなんだ。
僕は生まれなければ良かったんだ。
そう考えると、いつも僕の目から水が溢れてくる。
今日だってほら。
なんでなのか分からないけど、こういう時、お母さんとお父さんがもっと僕に優しくて頭を撫でてよしよしってしてくれたらいいのになって、思う。
ぺろりと舐めるとそれはしょっぱくて、怒鳴られている訳でも首を絞められている訳でもないのに、なんだか胸がきゅうと苦しくなった。
僕には友達がいない。
だから、僕はいつも独り。
独り、ぼっち。
独りぼっちの僕は今日も独りで家に帰らなくちゃいけない。
誰も迎えになんか来てくれないよ。
だって、僕は"いらない人間"だから。
それはお母さんが教えてくれた。
僕は、お母さんにも。
お母さんにも、いらない人間、なの……?