第2章 毒の塗られたミセリコルデは今
重い瞼を開けると瞳に写ったのは見慣れた白い天井だった。
何か、懐かしい夢を見た気がする。
まだ覚醒仕切っていない頭で朧気な夢の記憶にそう内心呟やく。
喉、痛いな。風邪でもひいたか。
いや、これは昨日飲んだあれの副作用か。
段々と覚醒してきた頭で昨日飲んだ解毒剤のことを思い出した俺は、乾いた唇を舐めるとベッドから降りて、洗面所に向かって歩く。
冷たい水が肌に突き刺さるように感じられた。
やなことを思い出しちゃったな。
そんなことを考えながらタオルで濡れた顔を拭いて、鏡の前で髪を整えるとドアのノック音が耳に入る。
急いでドアの鍵を外して開けると、そこにいたのはあの女だった。
全く朝から運がないな。絶不調だ。
「◯◯博士ぇ、今日も格好良いですねぐへへへ。朝ご飯まだでしたら是非ご一緒させて下さいー。」
そう言って涎を啜りながら弁当片手にドアをこじ開けて無理矢理中に入ってくる気色の悪いこの女の名前は滝島早苗(まきしま さなえ)。
俺のことをストーカーのように四六時中追いかけ回して涎を垂らしている変態だ。
正直家の中には入れたくなかったんだが、いつかこうなるとは思っていた。
俺は焼き上がったトーストにさくっという音とともに噛みついて一口牛乳と一緒に飲み込んだ。
その横で、やはりというか何というか、早苗は此方をじーっと見ている。
気持ち悪い。
俺は思わず溜息を吐きそうになるぐらい、体調も機嫌も絶不調だというのに、この女はこうやって人の家にずけずけと。
今日はやけに腹が立って仕様がない。
やはりあの夢のせいなのか。
いや、もうあのことを考えるのはよそう。
気分が悪くなるだけで、何も変わらないのだから。