第1章 rain of dirty
「・・・・?」
既に降り始めていた雨音は意外に心地よく耳に響いた。
ただ、朝が来ても一日中弄ばれるのかと思うと、また募らせるはふたつの感情だ。
鈍く痛む腰。
高さのあるナッシュの腕枕・・・そこに今ではどうしても当然のように寄せてしまう自身の頭。
身体をゆっくりと起こしながら、小さく呼吸して眠る彼を見下ろすと、名無しはそのとき、サイドボードに置かれたナッシュの携帯が光ったことに気付いた。
「・・ッ・・・」
名無しがそこで感じたのは、数秒間だけ表示されたバナーの文字はメッセージの本文を見て、胸が突き刺さるような思いに駆られたこと。
そしてどうやって気のせいだと己に言い聞かせるべきか・・・それだけだった。
「・・・―――・・」
女はほかにも沢山居るだろう・・・考えなくても分かる。
ナッシュの中にはきっと優劣があって、愛玩するにあたり、今は自分が偶々、一番上に位置付けされているだけ。
雨が降り出してから彼の携帯が光るということは、送り主が皆、同じ考えを持っているほかなかったのだ。
生憎の天候ゆえ、外でプレイすることが叶わないこと。
だからナッシュには時間があることを・・・。
「・・・・はぁ・・。――帰りたい・・」
部屋の外では、本降りになったのを示すかの様に雨音の量が増していた。
その後ナッシュの携帯は数度に渡りメールを受信しており、名無しは露骨に眉間に皺を寄せ、再びベッドに横になった。
もう一度、頭を彼の腕に付けながら・・・こんなときでさえ横たわる場所がナッシュの隣だということもなんだかやるせなく、たまらず噛むのは下唇。
雨雲が月明かりを閉ざし、真っ暗だった部屋にほんのりと灯りを振り撒いていたのも、皮肉なことにナッシュの携帯だった。