第1章 覚醒
おぞましい色をしたでかい巨体に、何やら骨のようなものがまとわりついている。そしてでかい面をつけたその生き物は、一度喰らったら一溜まりも無いであろう血に塗られた長くてでかい剣を持っていた。
―――死ぬ。あれを喰らったら間違いなく死ぬ。
「ひっ…」
「お前を消せば、我が主様をきっとお喜びになられる―――喜べ、審神者よ。お前は我が主のためにその命を捧げられるのだ」
(…さにわ?さにわって何?私のこと言ってるの?)
私はその言葉は聞いた覚えなど無かった。むしろ、此方のほうが教えて欲しいくらいだった。この騒がしい町は一体何なのか、自分は一体誰で何者なのか。その全てを知っている人物はこの町にいるのかどうか…。
(何もわからないまま殺されるんだったら、その方が…。)
何もかも諦めて、その巨体の生き物に身を委ねようとしたその時――――…
「フニャアアァァァン!!」
「っ…!?」
私の後ろから飛び越すかのように6匹の猫が鳴き声と共に巨体の生き物に立ちふさがった。
「君たちは…」
間違いない、目を覚ました時に傍にいた野良猫たちだ。彼らは逆毛をたてて、その巨体の生き物に威嚇していた。
「駄目…、駄目だよ!勝てっこないよ…」
自分を守ってくれるのは嬉しい、けれどあの巨体の生き物は未知の領域を越えている。いくら狩りの本能がある猫でもきっと剣を振り回されて攻撃を喰らってしまうのがオチだ。
「逃げて…、私のことはいいから…っ」
『そんなこと言って…。そーいうの、絶対死んじゃうやつだって、知ってる?』
「……え?」
声が聞こえた。正確には私の足元の方から。見ると、野良猫のわりにはやたらと毛並みが良くて首輪がおしゃれな黒猫がいた。その猫は懐いたかのようにすりすりと私の足に顔をこすりつけて、可愛く「にゃぁん」と鳴いたかと思うと、すぐに首輪の鈴をちりんちりんと鳴らせて、威嚇している猫たちに加勢しに走っていった。
気のせいか、首輪についている鈴が黒猫が走るたびに大きくなっているような―――…?
「あれ…?」
気のせいだろうか、私この鈴の音をどこかで聞いた覚えがある。
ずっと、ずっと、ずっとずっとずっとずっと昔に…。
その鈴の音色ともに脳裏に蘇ってくる記憶。チカチカとフラッシュバックする。少し、眩暈してくらっとフラつく。
「―――……」
「……にゃあん」