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【銀魂/土方夢】恋すてふ

第2章 恋ぞつもりて(土方side)


俺はふっと笑った。
「まぶしいくらいだな」
「土方さん?」
「俺は、妾の子だ」
杯をぐいっと飲み干しながら、言った。
「田舎の芸者が地元で有数の豪農に囲われた。それで生まれたのが俺だ」
「……」
「田舎の芸者だ。女郎と同義の、金さえ出せば誰にでも股を開く枕芸者だったんだろうと思ってた」
「……」
「でもそうじゃなかったのかもな。芸を売って、義理人情に厚い、そういう女だったのかもしれない。あんたや、あの姐さんたちを見てると、自分の母親もそうであったかもしれないと思いたくなるな」
「土方さん……」
「つまらねえことを言ったな。忘れてくれ」
「忘れたりなんかできないわ」
徳利ではなく俺の手をぎゅっとつかんで、彼女は言った。
「土方さんをこの世に存在させてくれたお母さんの話、忘れたりなんかできない」
その真っ直ぐな言葉は、俺の心を射た。
こんなことを言われて、惚れない男がいるだろうか。
それが芸者として身につけた手管であっても、だまされたいとすら思うほどに。


タクシーに乗った彼女の、手を振る姿が見えなくなった。
離れてしまった途端、また会いたくなる。
恋しい気持ちが奔流のようにあふれて、心の中に深い淵を作る。

本音を言えば、そのまま朝まで一緒にいたかった。
だが。
彼女が柳町の芸者だったと知ったときから、肝心なことが聞けずじまいだった。
それが俺を気弱にさせていた。
器の小さい男だな。
俺は自嘲気味につぶやいた。
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