第2章 恋ぞつもりて(土方side)
「あの」
彼女は、おずおずといった様子で俺の隊服の裾をつかんだ。
その姿が、まるで俺にすがりついているかのようで、俺の心はびくんと動く。
「ごめんなさい……驚いたでしょう?」
「うん、まあ……柳町の芸者衆と知り合えるとは思ってなかったしな」
彼女は複雑な表情を浮かべたままだ。
「……あの……」
小さい声で何か言いかけてやめる。
弁護士先生らしいキッパリした物言いが、今日は、いや、今は、すっかりナリを潜めてしまった。
そんな彼女も可愛いとは思うが。
今まで見たことない姿に、心配にもなる。
俺は裾をぎゅっとつかまれたまま、彼女の顔をのぞきこんだ。
そして、さっきから俺の心を占めている違和感の元を口にする。
「それに、俺の聞き違いじゃなければ、あの姐さん方、あんたのこと、って呼んでなかったよな?」
「……」
「確か、まりちよ、とか何とか聞こえたんだが、気のせいか」
彼女は俺の言葉に一瞬唇をきゅっとかみしめ、そして何事かを決意するかのように、口を開いた。
「そう……『鞠千代』……私が柳町に出ていたころの芸名よ」