第1章 しづ心なく(銀時side)
「いいねえ。お兄さんの食べっぷりを見てると、気持ちいいよ。」
え?
あ、そう?
えーと。そう言われると、何て言っていいかわかんねえな。
宇治銀時丼に引かなかった女、初めて見たしな。
「姐さんも、なかなかの食いっぷりじゃねえか」
「そう?やっぱり親父さんの定食が美味しいからじゃない?」
「言えてる」
「じゃあ、親父さん、ごちそうさま」
そう言うと、女はあっという間に去って行った。
何となくその女の印象が忘れられなくて、珍しく昼飯時に定食屋に足を向けるようになった。
だが、一週間通っても、その女に会うことはなかった。
そして最初に出会ってからちょうど一週間後の水曜日、カウンターに再び女の後ろ姿を見つけた。
幸い隣の席が空いていたので、俺は「隣いいかい」と言って座った。
「ああ、先週のお兄さん」
「おお、奇遇だな」
本当は奇遇なんかじゃないんだけど。
「はい、銀さんには宇治銀時丼」
座って早々に出された丼を見て、女は目を丸くした。
「すごいね、座っただけで出てくるの、オリジナルメニューが」
「まあな」
「すごい常連さんなんだね。私は週に1回だけだからなあ」
「そうなの?」
「うん、かぶき町に仕事で来るのが水曜日だけだからね」
「へえ、忙しいんだ」
「忙しいっていうか、そういうシフトなだけだよ。えっと……」
女はバッグをごそごそやって、俺に名刺を差し出した。
「これ私の名刺。お兄さんにもあげとくね」