第2章 恋ぞつもりて(銀時side)
そこから、極端に口数の少なくなった史緒ちゃんを促し(せっかくつかんでくれた袂は離されてしまった)、俺は近くの飲み屋に入った。
土地柄からか、瀟洒な作りの、女にも人気のありそうな店だ。
酒の酌をする手の動きを見ていると、なるほどこれが柳町の芸者の所作か、と納得する。
さらっと口当たりの良い酒に口をつけながら、史緒ちゃんに声をかけた。
「飲まねェの?」
「ううん……いただきます」
今度は俺が杯に酒を満たす。
きゅっと杯を干すと、白くて細い喉が動く。
その喉に唇をつけたら、この酒より甘い味がするのではないか……、そんな想像をしてしまって思わず唾を飲み込んだ。
落ち着け。落ち着け自分。
いつも饒舌な史緒ちゃんとの間の居心地の悪い沈黙が、俺の想像を変な方へ駆り立てる。
俺が沈黙に耐えきれず声をかけたのと、思いあまった彼女が俺に声をかけたのは同時だった。
「あのさ」「あの」
俺たちはお互いの顔を見る。
「あ……いや、史緒ちゃんから先にドーゾ」
「いえ、銀さんから……」
「……」
「……」
俺は意を決してこう聞いた。
「今は柳町に出てねえの?」
「……もうやめて随分経つの」
まあ、考えてみればそうだよな。
弁護士先生と柳町の芸者、二足のわらじは難しいだろう。