第2章 序章
「―――ッ!」
目が覚めると、そこは見慣れた天井だった。ゆっくりと起き上がり、辺りを見回すと先ほど見ていたのは夢だと自覚する。また、悪夢を見てしまっていたようだ。
「もう、見たくない…」
すると、近くにホットミルクと焼きたてのパンの香りに気がついた。どうやら誰かが持ってきてくれてくれたようだ。
「気がついたか。また、あの夢か」
「…飛雄」
「安心しろ、また同じように寝付くまで見張ってる」
「…言い方」
「うっせ」
彼は影山飛雄。数少ない冬樹の友人兼幼馴染で狩人をやっている。サクラノ村が滅んだあの日、偶然獲物を取りに行くついでに村の近くまで出向いていた。もし、彼が出向いていなければ村の騒ぎに気づかなかっただろうし、冬樹も助けられていたかどうか―――とにかく彼は冬樹の命の恩人なのだ。
「サクラノ村が滅んでから、最近魔物の出現が増えてるらしいぞ」
「え、それって本当なの?」
「ああ。さっき取引先の東峰さんに聞いたんだ」
「…やっぱり、あの魔族が言っていた『イブ』ってやつが関係しているのかな」
あのフードが誰だったのかはわからない。だが、あの魔族は確かに「『イブ』の魂をよこせ」と言っていた。攻撃魔法を冬樹に向けて。
「たかが御伽噺の登場人物だろ。んな深く考えたらまた夢に出るぞ」
「………そう、だよね…。ごめん」
冬樹が彼に救助されてから2年。冬樹は飛雄の住む村へと避難してきた。そして彼の家に居候しているのだが、彼女は恐怖のあまり外出できなくなってしまった。飛雄は冬樹が望むならそれでいいと受け入れているが、彼の両親たちは心配しているようだった。
―――翌日、彼の友人が遊びに来た。
「やっほ!影山!」
「声がでけぇよ日向ボゲ!まさかまた冬樹を外に出そうなんて考えてるんじゃないだろうな」
「ふっふーん♪そのまさかですよ、影山クン…。今日こそは3人で町へ行くのだっ」
「余計なことすんな!」
「余計じゃねえよ!外はこんなに楽しいのに、怖くて引きこもってるなんて勿体ねえだろ!それに…」
「それに、なんだよ」
「これ!」
日向は懐から何やら紙らしきものを取り出し、それを影山に渡した。受け取り中身を見てみると、それはどうやらこの国から出されたおふれだった。