第2章 序章
桜神がそう呟いた瞬間、地面から大木が生え始めた。その大木についているのは桜の蕾だった。
「『桜にも毒があるのさ。人間には聞かない隠された毒―――魔族のお前には溜まらないだろうな!』」
桜神の甲高い笑い声が響く。すると桜神はこちらへ向かってくる一人の人間を発見した。―――影山飛雄だ。
全力疾走でこちらへ向かってくる辺り、冬樹を助けること以外何も考えていないのだろう。
「冬樹いいいいぃぃぃ!!!」
「……あん?」
「『なっ、桜の木を登り始めただと…!?ここまでどれだけ高さがあると思っているのだ』」
桜神が余所見したのを魔族は見逃さなかった。武器の鎌が当たる寸前で桜神は避け、一旦距離を取る。
「邪魔が入ったなら好都合だわ、『イブ』の魂を狩るのに時間はそう掛かりそうにないわね」
「『貴様…!』」
「それにあの男の子も片付けてあげる。ただその身体の持ち主を何も考えずに助けに来るなんて、まるで飛んで火に入る夏の虫♪」
「――――飛んで火に入る虫はアンタなんですケド」
「!?」
背後の人影に魔族は気づくことは出来なかった。振り返るも時既に遅し、赤いフードをしたもう一匹の魔族の催眠術によって眠らされてしまった。
「はあ。ホント子供っぽいやり方するんじゃねぇよ」
「『……魔族と人間か?私の復讐に邪魔をするな』」
「あー、スイマセ―ン、邪魔はするつもりは無かったんですけどねぇ、この人の新入りをどうしても回収したかったみたいで?」
「おい、ツッキー!!」
不細工な顔した巨大猫(召還獣の類だろう)に乗った赤いフードの魔族。恐らく先ほどの魔族の仲間だろうと桜神は推測する。
「『お前もそいつの仲間か…?なら、そいつごと消し炭にしてやる』」
「ちょい待った、巻き込みはやめてくれよ。俺はこの子と仲間であることは変わりないが、アンタの守っていた村を滅ぼした張本人じゃない。
―――それに、その身体をそろそろ返してやったらどうだ」
「『戯言を…。私はこの子のために助けてやってるだけさ。故郷を滅ぼされた恨みを晴らすために』」
「君の意見はどうでもいいんだけどさ、あそこにいる単細胞は戻ってほしいらしいよ」
そこには必死になって名前を叫び、唸りながら桜の木にぶら下がっている冬樹の幼馴染だった。桜神は「チッ」と舌打ちを打つと、ゆっくりと目を閉じた。