第2章 序章
西暦××年―――
暗闇の中で淡く三日月が照らすも、その光は少女が目にする黄燐の炎には敵わない。その少女はこの世の終わりを目の当たりにしているかのような顔つきで、燃え盛る故郷を見つめていた。
そして、ガクッ――とうなだれる。
「嘘…、なんでこんなっ…!!」
少女のの故郷である村・サクラノは魔物と村人たちの悲鳴であふれていた。おかしい、おかしいこれは絶対におかしい、夜なるまではこんなことにはなっていなかった――と必死に少女は目の前の現実を否定し続けた。
「冬樹ッ!」
「っ…、みんな!一体何があったの!?ここは桜神様の結界で魔物が近づくことなんてありえないはずでしょう!?」
「破かれちまったんだよ桜神様よりも魔力のあるおっかねぇ魔物に…!」
「そんな…っ」
すると村の真ん中から小さな爆発が起きた。そこからさらに聞こえてくる悲鳴と魔物の遠吠え。その声を聞いた少女はブルッと身震いをした。
「とにかくここは逃げるしかない!走れっ、冬樹!」
一人の村人がそう言いかけた途端、突然上からフードをかぶった一匹の魔族が通せんぼをした。
「一人も逃がさないよ、『イブ』の魂を渡してもらおうか」
「てめぇは何言ってやがんだ!!村を…、俺たちの村をこんなめちゃくちゃにしやがって!」
「黙れ、裏切り者」
フードをかぶった魔族は両手を目の前にかざすとでかい火の玉を作り出した。それを打ち落とすかのように、少女――冬樹に向かって素手で落とした。
「死ね!そして私にその魂をよこせ!!」
「きゃあああああああっ!」
無理だ、今の自分の実力じゃあんなでかい火の玉は跳ね返せっこない。終わりだ―――そう思った冬樹は、ぎゅっと目を瞑った。
――――ドンッ!
その時、誰かが自分を勢いよく身体を押し火の玉の射程圏内から逃がした者がいた。
「っ…!?」
「冬樹ちゃん、逃げて!」
「頼む、俺たちの代わりに生き延びてくれ!」
それは、彼女をまるで家族のように接してくれた村人たちだった。
「そんなっ、皆行かないでっ!!」
しかし、冬樹が手を伸ばしても時すでに遅く―――火の玉は、村人たち全員に直撃した。
「あああああああああああ――――っっっ!!!!」
村人達の肉声と冬樹の悲鳴が響き渡ったのは同時だった。