第2章 序章
「おお、こりゃ大漁だな。山菜と―――何だ、薬草か?」
「ああ、それ前にツッキーが『切らした』って言ってたからついでに」
「別によかったのに…」
「これくらいはさせてよ、住まわせてもらってるんだし」
そういった山口は月島に笑顔を見せると「お風呂借りるね~!」とだけ残して脱衣所まで歩いて行った。
「……」
「いやぁ~、いい幼馴染だねぇ。羨ましい限りだよ」
「そうでもないですよ」
「え?」
「……山口は、……忠は、元々は〝ストリートチルドレン〟、働きながら路地裏で暮らしていたんです。僕もそんなに詳しくは無いんですけれど、同じ仲間にいじめられながら必死に生きていたんです。いつ死ぬかもわからないそんな環境の中で、僕と出会って―――それからは、僕のことばっかり。」
「……幼馴染クンにとっちゃ、ツッキーは大きな存在なんだな。幼馴染としてだけでなく、家族として見ているんじゃねーの?」
「僕はそんな恩を返されえるようなことはしていませんよ。―――まだですか、昼食」
「まだ手つけてねえって」
****
昼食を食べ終え、食後の一杯を飲みながら、月島はまた新しい本を読んでいた。家に閉じこもっていると薬の調合以外にやることがないのである。おかげで家の中は本棚だらけで、何らかの書斎のように見える。
ちょうど真ん中辺りのページを読んでいる時だった。
――――“助けて…”
「…え」
一瞬、頭の中に女の子の声が聞こえた気がした。念のため、同じ部屋にいるクロに尋ねてみる。
「クロさん、何か今、聞こえませんでしたか?」
「あん?何かって何」
「いや、さっきはっきり聞こえたじゃないですか。女の子の声で『助けて』って…」
「いや?何も聞こえなかったぞ、それにこんな森の奥に女の子なんて居ないだろ」
「それは……そうですけど、」
(だったら今の声は何だったんだ?幻聴してしまうほど身体はどこも悪くないし、魔法は発動させてないし…。)
「……まさか」
考えたくは無い、出会いたくもない。こんな自分を見てほしくない、外にも出たくない、願わくばここで一生隠れ暮らしていたい。
けれど、月島の何かが警鐘を鳴らす。魂なのか何なのかわからないが、嫌な予感がしてならない。
まさか、この近くにいるのか?
「――――………『イブ』?」
「…!」