第2章 序章
「で、今度は何を買ってきたんです?」
「そんなの食材に決まってんジャン。どーやらツッキーは俺の手料理がお好きらしいしな」
「…!べっ、別に今まで美味しい食事にありつけなかっただけですよ、好きとは一言も言った覚えなんてありません。変なこと言うと今度こそ燃やしますから!」
「おーおー、『人質』なのにおっかないねェ。 ―――あ、そーだ、買い物に行く途中にこんなもの無理やり渡されたんだが」
「はあ?また何かおかしなことが起こってるんですか」
クロが手にした紙を、月島は受け取りそれをすぐに読み始めた。それは城の王からの全ての国民に出されたおふれ書きのようだった。
「魔物…ねぇ、魔物といっても僕の近くにいる魔物は関係ないのかな」
「……別物だと思うよ、流石に。何、ツッキー、俺をその魔物として差し出すつもりだったの?」
「あ、バレました?」
「あのねぇ、魔物と魔族は違うから!そこ、ちゃんとわかってくれないかね、魔族は俺のような人間の身なりをした魔物のことだからね!」
「冗談ですよ、それにどっちだっていいです」
月島は興味なさげにおふれ書きを机の上に置いた。全ての国民、といっても自分は『アダム』だと言われ実の兄以外に虐げられてきたのだ。そんな生活に耐えられず、兄の反対も押し切って両親との縁を切り、実家から出た。そこでアダムとイブについて調べ始めたのだ。
この世界の伝承であり、御伽噺の人物であり、また畏怖の象徴である『アダムとイブ』。そのアダムの魂の持ち主である自分が表に出ればきっと捕らえられ酷い仕打ちを受けて、処刑されるに決まっている。『アダムの魂』の対となる存在、『イブの魂』の所有者と出くわした場合、この世界や自分がどうなるかわからないのだ。だからなるべく人目をさけて生きるようにしてきた月島だったが、彼の幼馴染がそれを許さなかった。そんな彼は月島の生活に関して酷く心配していたようだ。今だって月島の千里眼の魔法に頼らず、美味しいものを食べさせるために一人で山菜を採りに行っている。
「…噂をすれば」
「あん?」
木の枝のよける音が聞こえる。しばらくすると、小屋の扉が開いた。
「ただいま、ツッキー!」
「おかえり―――ってうわ!何その格好、泥だらけじゃん、汚いから早くお風呂入ってきなよ!どれだけ採って来たの…」
「ご、ごめんねー、ツッキー…」