第2章 序章
―――同時刻、とある森の奥深くにて。
そこにあるのは木材で建てられた小屋。それを自分の魔法で周囲に生えている木の枝で覆いかぶさり、特定の人物でしかどかし、侵入することが出来ないようにしている。その小屋の中で一人、分厚い本を読み終えた彼は、同居人の帰りが遅いことに腹を立て始めた。
「遅い…。どれだけ山菜取りに言ってる訳?別に自力で探さなくたって僕の魔法で生えている場所なんてすぐに分かるのに」
すると、コンコンと窓の叩く音が聞こえた。その音だけで彼は帰りを待っている同居人ではない、別の人物だと理解する。
(こんな無用心なやり方はあの人しか居ない)
仕方なく、窓を開けてやると何やら紙袋を持ち、赤いマントでフードのように被った体格のいい男が、中へ入ってきた。
「よっ、ツッキー」
「……その呼び方、やめてって言っているでしょう」
「え~!いいじゃん、山口くんと同じようにしてるだけだし」
「~っ、その呼び方は山口が考えてくれたんです!ですからそれに関係の無いあなたに気安く呼ばれたくありません」
「―――じゃ、『アダム』?」
その名を聞いた瞬間、ぞわっと背筋が凍る。
「………やめてください」
「じゃ、『ツッキー』で呼ぶね。あ~ぁ、何でこんな風になっちゃったのかねぇ。本当ならあの日見つけたときにこの廃屋でお前を人質にして怯えさせてから上司に差し出すつもりが、ツッキーってば、自分の魔法で結界張っちゃうし、幼馴染クンは引越しと勘違いして住み始めるし…。
―――おかしくね?これってさ、一応『人質』にして捕まえてるんだよね?俺、一応半分まで任務出来てるんだよね?」
「それを標的本人に確認するあたりでもう駄目なんじゃないですか?それに結界に関しては僕のほうが腕がよかったんでしょうね~」
…つまり、先ほどまで読書をしていた黒魔導師のツッキーこと、月島蛍は『アダム』の魂の所有者である。それを発見した大魔王の側近、クロこと、黒尾鉄朗は彼を誘拐し、この小屋まで運んだ。しかし、『人質』といえど彼は人間、お腹だって空くし喉は渇く。彼はせめて最低限のことはしようと人間に化けて町へいって月島から目を離した。
その瞬間を彼は見逃さなかった。
彼はすぐに魔法で結界を張り、特定の人物でしか入れないように仕掛け、自分の家にしてしまったのだ。