第2章 序章
「今のあいつは冬樹じゃない。桜神様に身体を乗っ取られてる人間と守り神の【半分】だ」
影山は何回かこの出来事に出くわしたことがある。初めて故郷の村の悪夢を見たとき、魔物に襲われて思い出してしまったとき、子供達にからかわれたとき―――…
「桜神様は冬樹が住む村の守り神だったからな、サクラノ村が滅ぼされたことを相当恨んでいるんだろう。でも、実体を持たないこの身体じゃ魔族に手を出すことが出来ない。…それで、冬樹を助ける代わりに復讐をするために憑依したんだ。普段はあいつの身体に眠っているが……」
「何らかの原因で冬樹さんが『村に関することを思い出してしまった場合』、出てきてしまうってこと?」
「……うっス」
冬樹があんな状態になってしまっては自分はどうすることもできない。だから、前回桜神が彼女の身体を乗っ取ってしまった時に知り合いの祓い屋に抑えてもらったが、今回はどうすることもできない。
そう伝えると先に反応したのは案の定、日向だった。
「ええええええ!!なん、なんで!?そのハライヤって人たちをここに連れてくるのは無理なのか!?」
「だからどうすることも出来ないっつってんだろうが日向ボゲ! あいつらは今、依頼を受けて悪魔払いしに隣国へ行っちまってるから無理だ、ここは桜神の怒りが治まるのを待つしかねぇ」
「―――いや、どうかな」
親衛隊長の縁下が呟く。
「ちょっとした意見なんだけど、彼女は故郷の村を滅ぼされたことを 〝思い出してしまった〟 せいで桜神に身体を乗っ取られたことが何回かあるんだろ?」
「は、はい、そうですけど」
「でも、今回は違うよね?」
その言葉に、二人は縁下が言っていた意味を理解する。
「その故郷を滅ぼした張本人が、目の前にいる…?」
「そう、だから今まで通りにはいかないんじゃないかな…。まあ、すごくマズイ事なんだけど最悪のパターンも考えておいたほうがいいかもしれない」
最悪のパターン――――つまり、完全に桜神に乗っ取られて戻れなくなってしまう…。
「無理っス」
「は!?ちょっ、待てよ影山!死ぬ気か!?待てってば!」
日向の声を無視して、影山は飛び出していってしまった。自分の大切な数少ない、友人を助けるために。