第2章 序章
そう言葉にした瞬間、2年前に冬樹を襲った同じ火の玉が勢いよく向かってきた。全員がそれに驚いても、冬樹は動じていなかった。
「≪リターン≫!」
火の玉が彼女たちに当たる寸前、冬樹は魔法を跳ね返す補助魔法を発動させた。リターンの魔法によって跳ね返された火の玉は、流星のように平地に落ち爆発した。
「……やっぱり」
「あの火の玉は、冬樹を襲った―――」
「ご名答。やはり現れたな、『イブ』の魂」
「お前はっ…!」
間違いない、2年前のあの日に故郷であるサクラノ村を襲ったあのフードの魔族だった。
「答えろっ!何故、私の村を滅ぼした!?あの村は私にとって大切なっ…」
「―――大切? …笑えるな。私にとっては裏切り者が集まったただのゴミ虫共の巣に過ぎない。
…それに、お前にとってあの村は本当に大切なのか?」
「…何が言いたい」
フードを被った魔族は「今更そう答えるのか」と鼻で笑った。
「知っているぞ、お前がその男物の白魔導師の服を身に着けている理由…」
「っ…!! …やめ…ろ…っ」
「冬樹…?」
「……っ」
冬樹の身体がガタガタと震えだす。いつの間にか汗もびっしょりかいて、歯もカチカチと音を立て始めていた。
「あんなに嘆いていたくせに『大切』?笑わせるな、お前だってあの村を自分にとって牢獄だと思っていたのだろう?」
「やめろっ…!それ以上言ったら暴走すんぞ!」
「あぁ…、うう……ぅ…」
「構うものか!魂の所有者などに興味なんて1ミリもない、あるのはその『イブ』の魂だけさ!
……なぁ、感謝くらいしてくれてもいいんじゃないか?あの牢獄の村を滅ぼしてやったんだから!!」
息を飲む。目の焦点があわなくなり、冬樹は光を見失った。
「『う゛ッ…ああああぁあああぁぁぁあああ!!!!』」
影山のいう、冬樹の「暴走」―――それは、村を滅ぼされ怒り狂った桜神に憑依され復讐に囚われてしまう事だった。
「っ、くそ!止められなかった…!」
「な!?な、何が起こってんだよ影山あぁっ、どうなって…」
「早く半径2キロくらい離れろ!巻き込まれるぞ!」
「全兵撤退!身の安全を確保!」
影山の指示に従い、日向たちはその通りに冬樹からしばらくはなれた場所へと避難した。
「な、なぁ、影山…。冬樹、どうなっちゃったんだよ……?」