第1章 転生
水の膜を通しているような、僅かに歪んだ遠い声。
綺麗なクイーンズ・イングリッシュ。
ぼやけた視界でははっきりとわからないけど、とても綺麗な女性の腕に抱かれている。隣には、見事なひげの男性。
口ひげの所為か紳士っぽく見える。というか服装から見たら英国あたりの貴族様?
「あなた……元気な女の子ですよ」
「あぁ…あぁ…よく、頑張ったねメアリー……本当に、元気な女の子だ……」
母親があなた、と呼ぶから、この人が父親らしい。ひげ触りたい。
震える手で父親に抱き上げられる。
近づいた事により、よく顔が見える様になった。ダンディーなおじ様だ。
ひげ触りたい。てか、触れる!
「あぶぅー!」
「いたたたっ」
「あらあら……お父様のおひげが気になったのかしら」
はいそうですお母様!
触りたくてむずむずしてたのですよ!
想像してたより固くて、なんか面白い!
お父様は痛そうに顔をしかめているけど、とても嬉しそうだ。
「これはお転婆さんになりそうだね」
「私に似たのかしら」
「おや……君と同じくらいお転婆になったら大変だろう?」
「まあっ! それはどういう意味?」
「旦那様。これ以上は……」
夫婦の後ろから声がかかる。……え、メイドさん?メイドさんなの?
「長いしすぎたね。君も疲れたろう、ゆっくりおやすみ」
「そうね……そうさせて頂きます。この子も眠いでしょうし」
お父様が名残惜しそうにお母様の腕に返される。その背中から見えたのは、やっぱりメイドさんでした。
完全にお貴族様のお宅です、ここ。
「おやすみなさい…メアリー、クロノ」
「ええ、おやすみなさい。あなた」
まさかの展開に、ぴしりと身体が固まる。
おでこにキスされた事じゃないよ?
前世と名前同じだよ! お父様お母様!