第2章 私の弟
そこから先は、はっきり言ってあまり覚えていない。
執事に連れられて、病院へ。
そこで、沢山の包帯を巻かれて眠るお父様と……白い布を被せられた、お母様。
「お、かぁ……さ、ま……?」
駆け寄ろうとする私の肩を執事が止める。
どうして……!? 私はお母様の所に行きたいの!
「ご遺体の損傷が激しく……とてもお嬢様には……」
「それでもいいの! おねがい! おかあさまにあわせて!」
「……わかりました」
そっとお顔の布が外される。
「…………っ!」
思わず息を飲んだ。
ある程度血は拭われ、整えられてはいるものの……美人だったお母様の綺麗なお顔は見る影もなく。とにかく言葉では言い表せない程に傷ついてしまっていた。
「おかあさま……うそよね? ねむっているだけよね?」
「お嬢様……」
わかってる。もう二度とお母様が目を開けない事くらい。
私と同じ、あの優しい色の瞳を見ることが出来ない事くらい。
温かな腕で、抱きしめてくれない事も、柔らかく微笑んで私の名前を呼んでくれない事も。
「どうして……おかあさま……どうして、どうして……!」
もう、二度と会えない。
「だって……わたし、おかあさまになにもしてあげられてない……! なんにもしてないのに……!」
行き場のない、怒り。悲しみ。そういったものが身体をぐるぐるまわって、それが目から溢れ出す。
「なんにも……かえせてないよ……」