第2章 私の弟
今日は私1人(使用人はいるけど)でお留守番だ。
お母様とジョナサンの健康診断で病院へ行かなくてはいけないみたいで、お父様はその付き添い。本当は私も行きたかったけど、病院で風邪を貰ったら大変だからという理由で連れて行ってもらえなかった。
「わたしはべつに、そんなに病弱じゃないんだけどなぁ」
女の子、ということもあるのだろうか。最近やたらとお父様は過保護だ。それはお母様が苦笑いしてしまう程。
確かにちょっと庭を駆け回ったり、木に登ったりはしたけどさ。
1人って言うのは、結構つまらない。
メイドさん達はお仕事があるし、執事さんに暇だなんて言ったらここぞとばかりに勉強を教えようとしてくるんだもの。
「うーー、つまらないーー!」
おかげさまで私は庭のブランコで、家族の帰りをただただ待っている。待ちぼうけだ!
ドカドカと激しく走る馬の足音がする。
その音に誘われて視線をあげると、門に1頭の馬がとまった。
操縦者は……執事長? 彼も両親とジョナサンの付き添いで馬車に乗った筈なのに。
どくりっ、と心臓が嫌な音をたてる。
焦りきった、余裕のない彼の顔。いつも冷静で取り乱したところなんて見たことがない彼が、あんなに感情を露わにするのは珍しい。というか初めて見た。
執事長は何事かと駆け寄った使用人に一言二言話し掛け、こちらへ早足でやって来た。
「どうしたの……? おとうさまとおかあさまは? ジョナサンは?」
「お嬢様……落ち着いて、お聞き下さい。……旦那様と奥様、坊ちゃまがお乗りになった馬車が……転落事故に合いました。只今、病院へ搬送されております」
目の前が真っ暗になった。