第14章 ウィル・オブ・タイクーン
広い空間に響く二つの足音。私達が後輩を置き去りにして向かったのは、厠ではなく駅付近にあった廃工場。少し中に入った辺りで歩みを止め、薄暗い建物内に向かって太宰は声を掛ける。
「…此処なら人目も無い、出てきたら?」
云い終えるや否や、後ろから太宰の首元に刃が向けられる。咄嗟に現れた刃を向ける人物に向けて、私をその人物の首元に手術刀を向ける。
見覚えのある顔だった。ポートマフィア・黒蜥蜴に所属する銀だ。
「やぁ、銀ちゃんか。背伸びたね」
『それで、用件は何かな。銀ちゃんと、樋口さん』
「…監視はお見通しと云う訳ですか」
建物内奥から銃を構えた樋口一葉も姿を現わす。駅のホームにいた時から、自分達以外の気配に気付いていた。唯、殺気はなかったので何か話があるのだろうと容易に想像できた。
「ポートマフィアの監視術を創始したのは私だからね。で、用件は?」
「この銃が用件とは思いませんか?」
『確かに、暗殺部隊にしては人選が半端だね』
「て事で茉莉も銀ちゃんも、危ないから刃物下げて」
太宰に制され三人共武器を下ろす。樋口は緊張してたのか、溜息を一つ吐き、首領から伝言を言付かって来たと話す。
「へぇ、森さんから。何かな」
彼の人の事だから、彼にマフィアに戻らないか、とか云うのだろうな。
「伝言はこうです。
【太宰君、ポートマフィアの幹部に戻る気はないかね?】」