第14章 ウィル・オブ・タイクーン
自動銃では歯が経つわけもなく、次々と破壊しながら進む中原を食い止めに与謝野、賢治が向かう。
中原は首領からの贈呈品だと云い、一枚の写真を取り出す。組合の団員二人が写り、裏に現れる時間と場所が記されていた。だが、唯渡しに来たのではない、何か裏がある筈だと思えば案の定だった。
ポートマフィアは組合を誘い出す為に、横浜から離れた宿に避難していた探偵社事務員を餌に誘き出したと云う。確かに組合にとっては魅力的な餌だ。
《すぐ避難させりゃ間に合う。その上、組合はお宅等が動くことを知らない。楽勝だ》
「奴の言葉に嘘はあるか?」
「…無いね、残念ながら。こう云う時は真実が一番効く」
「荒木、事務員に避難指示を」
『はい、攻勢側にもこの事伝えます』
「乱歩、国木田に繋げ。荒木、太宰にも伝えたらお前は太宰と合流し、事務員を別の避難拠点まで送れ。外に車を用意した」
『了解です』
****
太宰、敦に連絡し今から向かう旨を伝えた所で、中原が撤退したのか与謝野、賢治が戻って来た。
「中原は撤退した、出るなら今だよ茉莉」
『ありがとうございます、晶子さん。社長、行って来ます』
「頼んだぞ、荒木」
晩香堂を後にし廃路線を抜け地上へ出ると確かに車があった。五人ほどなら詰めて乗れそうな軽車両だ。乗り込みエンジンを掛けた時、窓を叩かれ見ると撤退した筈の中原が立っていた。
「よぉ茉莉、待ってたぜ」
『撤退したんじゃなかったっけ、中原君。
退いてくれないかな、貴方達のお陰で行かなきゃいけないんだけど』
「なんだ、俺とドライブでもするか」
『人の話聞いてよ、其処を退いて。後、自分より小さい人とドライブなんかしませんよ』
「たかが4、5㎝の差だろ⁉︎じゃなくて、お前に話したい事があんだよ」
急いでいるんですけど、と思いながらも退く気が無さそうなので仕方なく聞くことにした。
「…その、悪かった。お前がダチ亡くして心の整理がついてない時に、俺の想い一方的に押し付けて、お前の事、傷付けて」
…なんだ、そんな事か。と溜息を一つ吐きながら、
『中原君がした事なんて、あの教授眼鏡に比べたら些細な事だよ。其れに、私の中では中原君は、もうとっくに時効になってるしね』
と云い唖然としている中原を残し、車を出した。