第12章 たえまなく過去へ押し戻されながら 後編
ー敦目線ー
居場所を失くしたく無い、とそう云った彼女に
僕に、何かできる事は無いだろうか。と、その一心で声を掛けた。が、僕を睨むなりすぐに走って行ってしまった。
「あぁッ、もうエリスちゃん!!何処に行っていたのだい⁉︎心配したのだよぉ⁉︎⁈」
と横の方から中年男性の大きな声、と云うか泣き声が耳に響く。
先程組合の刺客の異能力による部屋に閉じ込められてた時一緒にいた白衣姿の中年男性だ。
いつの間にか彼の前には、赤いワンピースを着た金髪碧眼、11か12歳くらいの少女が立っていた。
「急に消えたら、リンタロウが心配するかな?と思って…
リンタロウを泣かせたくなった」
「酷いよエリスちゃん!!でも可愛いから許すッ!!!」
なんて会話に苦笑しかでない。
トサッと自分の背中に何かぶつかり、振り向くと鏡花ちゃんが抱きついていた。
「鏡花ちゃん、迎えに来てくれたの?」
「…心配した、だから茉莉さんに連れて来てもらった」
「ありがとう^ ^」
「それでは、私達は失礼するよ」
今さっきまで連れの少女と騒いでいた男性が此方に声を掛けた。改めて見ると、臙脂色の瞳が印象的だ。
「先程は助言、有難うございました。そう云えば、お医者さんなのですか?」
「元医者だよ、今は小さな寄合の仕切り屋中年さ。
…少年、どんな困難な戦局でも必ず理論的な最適解はある。混乱して自棄になりそうな時程、其れを忘れてはいけないよ。ーーではでは」
と、手を振りながらその場を後にする二人。
(困難な時でも道はある、か)
ふと、隣に立っていたはずの鏡花ちゃんが僕の腕にしがみ付いたと思うと、急にしゃがみ込み息を荒くする。
「鏡花ちゃん、如何したの?鏡花ちゃん⁈」
『敦君ッ!!!』
鏡花ちゃんと一緒に来たと云う彩さんが駆け寄ってくる。
「茉莉さん!鏡花ちゃんの様子がッ!!」
『鏡花ちゃん落ち着いて、もう大丈夫だから。
…敦君、さっきの男の人に何もされなかった?』
「え?さっきの人は唯、自棄になってた僕に助言を…『困難な戦局だろうと、必ず理論的な最適解は有る、とか云ってなかった?その人』な、何で其れを」
少し間を開けると茉莉さんは、鏡花ちゃんを連れて探偵社に戻ろう、臙脂色の険しい目をする。未だ呼吸が整わない鏡花ちゃんの背を摩りながら。
ー敦目線・終ー