第12章 たえまなく過去へ押し戻されながら 後編
特に何も言われる事も無かったので、私は通常業務なのだろう。
国木田さんや治からは少し休めと言われたが、休んでいると余計に考え込んだしまいそうだ。
賢治君の安否もだが、先程社を出た谷崎君やナオミちゃん、敦君も心配だ。何も起こらなければ良いのだが…
会議室にお茶を持って行こうと給湯室で準備して居ると、誰かがやって来た。新入社員の泉鏡花だ。
「ぁ、あの…」
『えと、鏡花ちゃんだね、どうしたの?』
少し黙ってしまった彼女。そう云えば他の人にはそれなりに接していた彼女だが、どうも私だけは少し挙動不審になっている。
…私、何かしちゃったかな?
それとも…
『鏡花ちゃんはマフィアから来たんだよね』
「はい…貴女も元マフィアだって、聞きました」
『じゃあ、組織の長には会った事あるかな?』
「それなりには…」
『…そんなに似てるかなぁ、彼の人と私』と苦笑交じり呟き、まだ少し怯えてる様子の鏡花の頭を撫でる。
『取って食ったりしないよ。鏡花ちゃんのペースでゆっくりでも良いから、慣れてくれると嬉しい。此れからも宜しくね』
少し頬を赤らめながらも、確かに頷いてくれた。
『さて、新人ちゃん。此れから会議室にお茶を運ぶの手伝ってくれるかな?お茶出しも新人の大切な仕事だからね』
「はい」
『その後は、敦君達を追いかけようか。心配なんでしょ?』
「!はいッ」
その後、敦君達を追いかけると言って、国木田さんの制止を聞かずに私と鏡花ちゃんは街へと出た。
少し歩いていると、何やら大通りの方から車の警笛が聞こえてくるし、何より渋滞になっている。
大通りの交差点まで出ると、交差点のど真ん中で人々が呆然と座り込んだり、倒れこんだりしていた。その中には敦君達、さらには賢治君の姿もある。鏡花ちゃんは敦の無事な姿を見つけると一目散でかけて行く。
当の本人は少し遠くの方で誰かに声を掛けていた。組合の団長と共に社を訪れていた赤毛の少女だ。彼女は敦を睨むなり瞳に涙を浮かべながら走り去る。