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もう一人の女医 【文豪ストレイドッグス】

第11章 たえまなく過去へ押し戻されながら 前編



この国で異能者の集まりが合法的に開業する為に必要な、内務省異能特務課が発行する許可証。
だが、特務課は表向きには無いことになっている秘密組織、故に金で買収できる訳がない。
特務課を敵に回さず大手を振ってこの街で『捜し物』をする為にその許可証が欲しい、と云う申し出に社長は

「断る。命が金で購えぬ様に、許可証と替え得る物など存在せぬ。あれは社の魂だ、特務課の期待、許可証発行に尽力して頂いた夏目先生の想いが込められて居る。
頭に札束の詰まった成金が易々と触れて良い代物では無い」

「『金で購えないものがある』か、貧乏人の決め台詞だな。だが、いくら君が強がっても社員皆消えてしまっては会社は成りたたない、そうなってから意見を変えても遅いぞ」

「御忠告、心に留めよう。帰し給え」
「お客様のお帰りでーす」
ナオミちゃんの声に部屋の外で控えていた賢治君がドアを開ける。


「明日の朝刊にメッセージを載せる。よく見ておけ、俺は欲しいものは必ず手に入れる」


****


「君は、福沢社長の秘書か何かかな?」
昇降機へと向かう途中だった。賢治君を先頭に向かって居ると、後方を歩いていた組合団長に話しかけられた。

『いえ、私は唯の社員ですが?』
「そうか?立ち居振る舞いといい所作といい、中々優秀な秘書と見えるが、気のせいだったかな?」
『…気のせい、では?ですが恐縮です、有難うございます。お気を付けてお帰り下さい』

昇降機が到着し三人と賢治君が中へと入る。自分も入ろうとしたが賢治君に止められる。
「茉莉さん、後は僕が送りますよ^^」

と云って自動扉が閉まる。

その日、賢治君の姿を誰も見ることはなかった。

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