第11章 たえまなく過去へ押し戻されながら 前編
マフィア本部から抜け出し、探偵社に向かおうとしていた、が。
「え、明日マフィアから抜け出したことにしようと思ってたのに」
『…はぁ?』
なんて云う太宰に半強制的に彼の家にである、社員寮に引っ張られていった。
『…絶対に国木田さんにどやされる』
「いつもの事じゃ無いか」
『貴方だけだよ、いつもどやされてるのは…』
にしても、汚い部屋だなぁ…
部屋に上がれば、酒瓶と蟹缶の山と引きっぱなしの布団。散らかり過ぎて兎に角汚い。
『少しは片付けたら?その内畳にカビが生えるよ』
「茉莉も、たまにお母さんみたいな事云うよねぇ」
と砂色の外套を脱ぎ捨てながら、引きっぱなしの布団の上へと転がる。
自分の外套を脱ぎながら彼の外套も拾い、畳んで部屋の隅へ置く。
『ほら、其処退いて。一回掃除するから、布団も干すよ』
テーブルクロス引きの要領で布団を引っ張ろうとした、が寝転がる治に腕を引かれて私も布団に転がり、後ろから抱き締められる形となる。
『ッ、急に何?』
「…君はいつも変な所で抜けているから、時々心配になるよ。今回だって油断していたから、中也に連れていかれたのではないのかな」
『あれは、下駄の鼻緒が切れたからで油断していた訳では…ッ!』
首筋に顔を埋めていた為、治の髪がくすぐったかったのも束の間、自分の頸をつっと舐められ背筋を震わせる。
「本当に、君はもう少し周りを警戒した方が良い」
…そんなに警戒心無いかな、私
と不服そうな顔をしているとガラリと景色が変わる。仰向けになっている自分を、少し怒った様な表情で見下ろしている彼。
『…怒ってるの?』
「あぁ、怒ってる。警戒心が薄すぎる君に、そんな君を連れ去った中也に…それに何より、最愛の人を守りきれなかった自分自身にもね」
『先に捕まってたのは治の方でしょ?』
彼の頬に手を添えて云うと、少し自分の頭を上げ触れるだけの接吻する。
『此れでお相子様、少しは怒りも落ち着いた?』
「ふふふ、まさか…逆にスイッチ入った。
覚悟し給えよ、茉莉」