第10章 在りし日の…
「それから中也、別件でもう一つ聞きたい事があるんだけど」
「あ?んだよ、まだ何かあんのか?」
「君、茉莉に会ったの?」
一瞬、中也の動きが止まる。
「会ったのだね…
芥川君から聞いたのだけど、組織上層部が…
首領が、茉莉をマフィアに連れ戻せと下命したそうだね」
「……あぁ、そうだよ、彼奴に会った。
俺がこっちに戻ってくる時に、偶々見かけて本部に連れて来た、今は彼奴の部屋で眠らせてある。脱出した後で連れてっても無駄だぜ?彼奴の今の住居なら、黒蜥蜴の連中が探査済みだからな」
やはりか…
と云いう事は、茉莉はこのビル内に居る。
「よく茉莉の前に姿を見せれたものだね…
君が四年前のあの日、彼女に何をしたか、忘れたとは云わさないよ?」
「………忘れてねぇ、忘れるもんかよ。
あの日、俺が茉莉にした事は一生許されねェ事だ。惚れた女一人救ってやる事すら出来ねぇで、惨めにも四年間、悔いていた」
何とも気弱な、消えそうな声で、中也は呟く。
あんな粗雑な中也でも、こんな弱音を吐く事もあるのだね…
「まぁ それは彼女と君の問題だ、許しを乞うのなら彼女に直接云う事だね」
「チッ……用を済ませてさっさと消えろ」
「どうも、でもひとつ訂正。
今の私は美人との心中が夢なので、君に蹴り殺されても毛ほども嬉しくない、悪いけど」
「そこは茉莉とじゃねえとかよ」
「茉莉と心中はしたいけど、彼女には生きていて欲しい方が大きいからね」
「あっそ、じゃ今度自殺志望の美人探しといてやるよ」
「君、実は良い人だったのかい?」
「早く死ねって意味だよバカヤロウ(怒
云っておくがな太宰、これで終わると思うなよ、二度目はねえぞ」
手を振りながら、再び出口向けて歩みを進める。だが、そのまま去ろうとする中也を呼び止める。
「所で中也、何か忘れてない?」
中也はその場で怒りを抑えながらも、内股になり、
「…二度目はなくってよッ!」
と振り返り際で私に指を指す。
……なくってよ、て
内心つぶやきながら無反応でいる私。
「そこは笑う所だろッ!!(怒」
ー太宰目線 終ー