第8章 人を殺して死ねよとて
ー敦目線ー
強すぎる…
何度立ち向かっても悉く夜叉に斬られ、刺され、突かれた。
「何故…君みたいな女の子が」
「……私の名は鏡花、あなたと同じ孤児。
好きなものは兎と豆府、嫌いなものは犬と雷。
マフィアに拾われて六ヶ月で35人殺した」
《爆弾を守れ、邪魔者は殺せ》
また携帯からの声。また夜叉に刺される。
薄れかけた意識の中、ふと先ほどまで後部車両に乗っていた乗客達が目に入る。
此処で死ぬのか僕は?
また僕の所為だ、僕と同じ電車に乗ったそれだけの所為て、皆死ぬ。
ーー誰も救わぬ者に生きる価値などない
嗚呼、またあの人の、院長先生の声が頭に響く。
その時、唐突にある発想が浮かんだ
莫迦げた発想だ、でも頭から離れない
もし万が一、僕が乗客を
彼らを無事家に帰せたなら
そうしたら僕は
生きていても良いって事にならないだろうか?
***
次にきた斬撃、だが当たってない。
瞑っていた目を開くと、虎と化していた自分の腕が刃を止めていた。
夜叉の刀を払いのけ女の子の首元へ虎の爪を立てる。
「終わりだ、この能力を止めて爆弾の場所を教えろ」
「…私の名は鏡花、35人殺した
一番最後に殺したのは三人家族、父親と母親と男の子、夜叉が首を掻き切った」
感情のない声で呟きながら着物の首元を一枚開ける。胸元には爆弾があった。
ザーっとノイズが流れると次第に与謝野さんの声が聞こえてくる。
《こちら車掌室、敦まだ生きてッかい?
こっちのヘボ爆弾魔によると、そっちの爆薬は遠隔点火式だ!解除には非常時用の停止釦しかない、そっちのマフィアが持ってるはずだよ!》
「…君が、持ってるのか?渡して」
少しの間の後、素直に渡してくれる。
停止釦を押す。と直後に鳴る機械音。
《……それを押したのか鏡花、解除など不要、乗客を道連れにしマフィアへの畏怖を俗衆に示せ》
数秒で爆発⁉︎
「爆弾を外さないと!」
「間に合わない」
ドンッと細い腕で押し飛ばされた時僕は漸く気が付いた。
彼女の能力は何時も携帯からの声で動いていて、一度だって彼女の為に動いていない。
どうして気づいてあげられなかったんだ。
「私は鏡花、35人殺した
ーーーもうこれ以上一人だって殺したくない」
そう云うと彼女は涙を浮かべながら、電車から下の川へ飛び降りた。
ー敦目線 終ー