第2章 暴走×逃走
セレナ
「なんで……なんでおかあさんがいるのよっ!!!!」
おかあさんとさようならしたのは6歳の時だけど、それでも姿形は鮮明に記憶してる。目の前に立っている女性は間違いなくわたしのおかあさんだ。
おかあさん
「セレナ……」
おかあさんがわたしに微笑みかけながら、両腕を伸ばす。
セレナ
「おかあさん……」
おかあさん
「セレナ……セレナ…セレナセレナセレナ」
セレナ
「お、おかあ、さん……?」
明らかに様子がおかしい。笑顔だったはずのおかあさんは、今や歪んだ顔で……
おかあさん
「どうして……どうして生き返らせてくれなかったのぉおおお!!」
セレナ
「ひっ……」
ちがう!!
ちがうちがうちがう!!!!
頭で警笛が聞こえる。すぐに離れろ。危ないぞ。
だけど、身体は言うことを聞かない。
気づけばさっきの姿とは全く別の、アノおかあさんがいた。
もう、ホラーだ。
血みどろの、おかあさん。
目は血走って、焦点が合ってない。
そんな剥き出しの瞳はわたしをキロリと見てはいる。
ゾンビだ。
そう思った。
おかあさん、といってもおかあさんとは呼び難いその女性は両の腕をわたしに伸ばしたまま、飛びかかって来た。
警笛は鳴り止まない。身体は硬直したまま。
わたしの首元には、おかあさんと思しき女性の、手。
その両手がしっかりとわたしの気道を締め付ける。
すぐに息苦しさがやってきて、生理的反射でわたしはその人の腕を掴んだ。
セレナ
「やめ、て……おがぁ、さん……やめてっ」
おかあさん
「コロス…コロス……コロスコロスコロスコロスコロスコロス」
本格的に酸素が足りなくなったのか、視界がぼんやりし始めた。
苦しい。息が、できない。
怖い。恐い。
剥き出しの、殺意。
おかあさん、きっと怒ってるんだ…
中途半端に生き返らせて。
結局、1番大好きなヒトに殺されて。
また死んで。
ワタシ、イケナイコ……?
ダメナコ?
ごめんなさい……ごめんなさい…ゴメンナサイ…ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ……
意識が遠のいていく。
左上腕の紋様が痛くなる。熱い。
頰に流れる水も、あつい。
黒いオーラが右腕から迸り始める頃には、わたしは意識を手放していた。