第1章 【家康】私の知らない君と、俺の知らない君
半刻後…。
花蓮はそわそわしていた。
何度も来たことのある部屋だけど、家康の席に自分が座るなんて…。
いつもはほっとするこの部屋も、
景色が違って見え、
なんだか落ち着かない気分になる。
「家康、入るぞ」
和紙に包まれた平らなものを抱えて
秀吉は障子を開けて入って来た。
「悪いな、遅くなって。ほれ、前頼まれてたやつだ」
そういって包みを解くと…
「綺麗…」
息を飲むほどの美しい反物。
山吹色の生地に、菊や百合などが描かれ
可愛らしくもありながら程よい上品さが漂い
一目で質のいいものだということががわかる。
「これって…」
「ああ、お前に頼まれた通り俺贔屓の染物師に依頼した。予想以上の出来だろう?花蓮も喜ぶな」
「え?」
「ははっ、分かるって、お前の様子を見てりゃ。花蓮に浴衣を仕立てるんだろ?」
(そう言えばこの前、家康に好きな色、聞かれたっけ…)
「ま、なんかあったらまた頼れよ。手配してやるから。
その代わり花蓮が浴衣着たら教えろよ、俺も仕上がり楽しみにしてるから」
じゃ、と秀吉は部屋を後にした。
(家康ったら…)
一人ぼっちになった部屋の中で
私は反物を抱きながら
口元が緩むのを止められなかった。