第1章 【家康】私の知らない君と、俺の知らない君
(疲れた…)
広間から自室へ戻る廊下で、
花蓮(家康)は盛大にため息を付いた。
花蓮に代わって
慣れない仕事を今日一日こなしただけでなく…
それ以上に花蓮の仕事の多さに驚いた。
(いつも、暇で俺のところに遊びに来てるんだと思ってたけど。意外と忙しいんだ)
ふ…と息をついて、庭を眺めてると
1人の女中が手を振ってやって来た。
名前は分からないが、いつも花蓮と
親しげに話してる女中の1人だ。
「花蓮様ー!」
「な、なに?」
バレないか、ヒヤリとする。
「これ!池の周りに咲いてた水仙です」
そう言って、俺の腕に
水仙の花束を押し付けてきた。
「え?」
「花蓮様この前、水仙が見ごろになったら真っ先に家康様に見せてあげたいって、仰ったじゃないですか。特に綺麗なのを選んで持ってきたんです。ぜひ、家康様のお部屋に活けてあげて下さいね」
「……ありがとう」
「では、ほかにもお務めあるので私はこれで」
そう言うと、女中は笑顔のまま
中庭へと戻って行った。
大輪の1株に顔を近づけると、
ほんのりと良い香りがする。
胸をいっぱいにするその香り以上に、
家康の心に何とも言えない気持ちが広がって、
つい口角がゆるむ。
(なんなの、あいつ)