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的場一門の妖姫

第18章 色褪せぬ想いは大空へ消えゆく


「その文に出てきた約束というのは、なんの他愛もない"また明日会おう"という約束だった」
病弱だったヒナギクは体が弱いくせに、我が住処にしていた森へよく訪れていた。
少し気の強い彼女の態度は周りの妖たちのように腫れ物を扱うようなものではなく、むしろ対等に扱っていてくれたようにも思える。
「それまで対等に接してきた奴がいなかった分、ヒナギクの存在が我の中で大きくなるのにそう時間はかからなかった。心地よかったのだ」
すぐにその命を終えてしまう人の子だとしても、一時の慰め程度だったとしても、安心出来る相手というのはとても貴重だった。
そしてある日、また会う約束をした翌日。ヒナギクが我の前に現れることは無かった。
「当時の我は寂しさと悲しみで力の制御ができず、雷が暴れて森ひとつを焼け野原にしてしまったことがあるのじゃ」
そして祓い屋に壷へ封じられ、それ以来ヒナギクに会うこと叶わずこんな結果になってしまった。
「あの程度の壺なんぞ我にかかればすぐ破れるはずだった。しかし、消耗していた時に封じられたうえその壷には妖力を吸い上げる術も施してあった。そして今、我に残っていたのはヒナギクに会いたいという未練のみだった」
そう言い終えると突如としてカヅチの身体が淡く光りだし、光の粒子が天高く登り始めた。
「カヅチ!?」
「…どうやら我もそろそろ限界のようじゃの」
「限界ってどういうこと…?」
『解らぬか我が主よ。今のカヅチにこちら側に留まっていられるだけの力はもう残っていない』
「そんな…!」
しかし焦る私とは裏腹に、カヅチは落ち着いていて表情も穏やかだった。
「そうさな。、といったか。手を出すが良い」
「これは?」
差し出した手に乗せられていたのは、美しい黄色い石でできたブレスレットだった。
「それは我が力を込めた腕輪じゃ。残り少なくなってしまっているから少しだけしか込められなかったがの」
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