第9章 拒絶
どうしてここにいるのか?そんな疑問が浮かぶより先に、の口は自然と動いていた。
「――なんで来たんだよ」
「貴女を探しに来たんですよ」
「ああ、そうか。縁談避けが消えたら困るもんな?」
「それは――」
「違うって言うのか?嘘つくんじゃねぇよ。アンタからしたら私なんてガキなのに、あんなこと言った割にあれから何も無い。所詮はその場凌ぎだったんだろ?」
違う、こんなことを言いたいんじゃない。
そう思うのに、思考とは裏腹にこの口は言うことを聞いてくれない。
「なぁ…的場静司。アンタにとって私は何なんだ…?」
的場は息を呑む。静かに問いかけてくる彼女の表情(かお)に、その問いかけに。
(私にとって…)
という存在は他の式達と違って変えの効かぬ存在。今の自分にとって、なくてはならない存在。
「私にとっての貴女は何者にも変えられな――」
「!?」
的場が答えを言おうとした、その時。
『貴様ァ…半妖ガこの地ヘ何用ダ…!喰ッテヤル…!喰ッテヤルゾォ…!』
「か…っ、はな、せ…!」
得体の知れない"黒い靄"(もや)がの首と胸元に絡みつき、それはまるで手のようにも見えた。
「!!」
なぜ気づけなかった?こんなにも近づいていたというのに!
自責の念に襲われるが、それよりもまずはを助けなければ。
しかし、黒い靄を消滅させようにもも半分妖なのだから下手に札は使えない。封印系統もまた然り。
そして、意を決して的場は親指をすこし噛み血液を滴らせた。
「、貴女なら耐えきれると信じます!」
反対の掌に血で何かを書き、黒い靄に押し当てた。