第9章 拒絶
ちょっとした気分転換で散歩するつもりで的場邸を後にした。しかし、気づけば深い森の中。運悪く夕立にあい、雨に濡れた草で足を滑らせて捻挫し立ち往生になってしまった。
一方、七瀬からがいなくなったと報告を受けた的場は出先から急いで的場邸へと戻り、微かになってしまった彼女の気配を辿り森の中へと入って行った。
夕立の雨のせいで視界が悪くなっている中、とうとうの気配が途絶えてしまった。
(…とうとう途絶えましたか。しかし段々と薄くなっていたことを考えれば…)
ふと辺りを見回し、ある一点で的場は視線を止めた。
「これは…」
何かが滑ったように土がすこし抉れていることに気付き、的場はその先を辿った。
「…こんなところにいましたか」
そう呟き、ほぼ意味のなくなってしまった番傘を前方へ突き出した。
どれ位の時間座り込んでいたのだろう。
長時間座り込んでいたのと未だに降り注ぐ冷たい雨のせいで感覚が麻痺しかけてきている。
そんな中でぼんやりと考えた。
的場一門を追い出されたら自分はどうするのだろう、と。
的場に拾われる前の生活にもどるのか?いや、そもそも1度は祓い屋に身を置いた私に前のような生活が出来るのか?そもそも、自分など必要とすらされていないのでは…?
そんなことを考えていると、ふと雨が止んだ。
否、雨が止んだのではない。周りはまだ雨が降り注いでいるのだから。では何故――
そして頭上から呆れたような、けれどどこか安心したような声が降ってきた。
「…こんなところにいましたか」
聞き間違えようがない。とても聞き慣れた声。
「…主」