第6章 想うキモチ
「ん…」
あれからどのくらい時間が経ったのだろう。
気が付くと、消毒液のような薬品独特の臭いが鼻腔を刺激する。
(確か…階段から落ちて…、それでどうしたんだろう…)
微睡みから意識が覚醒してくると、先程まで感じなかった体中の痛みがズキズキと鮮明になってくる。
これは痣がいくつか出来ていそうだな、と思いながらふと傍らを見遣ると見馴れた、しかしここに居る筈のない人物がいた。
「…ある、じ」
「ああ、気が付きましたか」
若干掠れた声でその人物を呼べば、優しげに目を細めた。
「なんで…ここに…」
「貴女が階段から落ちて気を失ったと学校から連絡を受けたんです」
「そっか…」
視線を天井に戻し、ごめんと小さく呟いた。
「貴女の不注意だとは思いますが、なにか考え事でもしていたのですか?」
(考え事…)
確かに考え事はしていた。そのせいでこんなことになっているのだが、果たしてその内容を本人に打ち明けていいものなのだろうか。
「いや…。でも確かに不注意だった。ごめん」
再び謝罪の言葉を述べれば、的場はの頭を優しく撫でる。
「もういいですよ。ただし、何かあれば抱え込む前に相談してください」
「…わかった」
「さて。そろそろ帰りましょうか」
そう言って立ち上がった的場は、の背中と膝裏へ手を差し込み軽々とを横抱きにした。
「お、おい!?主なにして…っ」
「どうせまともに歩けないでしょう。大人しくしていてください」
「だからって!」
顔に熱が集中していくのが嫌でも分かる。
(くそ…!主め平然としやがって…)
こんな時平静でいられないのは自分の方で、的場はというとやはりいつも通り。
意識されていない。
――――チクリ
(…まただ)
この胸の痛みはなんなのか。には全く検討もつかず、的場に相談するという考えも浮かぶが何故か躊躇い、消えてゆく。