第1章 お前、ほんとバカ 【シン】
しっかりと目を合わせて伝えたくて、の顔を両手で包み、目線を合わせさせる。
「お前には、色々我慢させたよな……悪かった」
「ううん、シンが頑張ってるんだもの、私も頑張らなきゃって思ったよ」
「そう思ってくれてたなら、すげー報われる」
お前を包んでいる俺の手に、そっと自分の手を重ねて。
滲み出てくる優しさが、手を伝わって脳内に入り込んでくる。
受験生の間は、自分のことだから、俺はいくらでも我慢できた。
でも人に合わせて我慢するって辛い。
好きな人だからできるってことじゃないと思う。
「……ねぇ、シン」
「なに?」
モジモジしてるから、なに恥ずかしそうにしてんだって思ったら、の腕が首に回ってきて。
ゆっくりとだけど、こいつから抱きついてきた。
の匂いがする。
もう何度となく抱きしめてるし、匂いも知ってるけど。
これまでで一番、コイツの匂いと温度を感じる。
俺も、そっと抱き締め返したら、の腕の力が少しだけ強くなった。
「……シンなら絶対合格するって思う反面で、不安だったの。もしも……なんて考えちゃってた。……ごめんなさい」
「謝らなくていいよ。それが普通じゃない? 俺も考えたし」
「……合格してよかった。おめでとう」
「……泣いてんの?」
声が途中から涙声になってんだけど。
こんな涙もろかったっけ?
でも。
きっと、俺のために泣いてくれるのって、お前だけなんだと思う。
特に、嬉し泣きは。