第5章 キミだけは手放せないな【ケント】
数時間後。
読んだ感想を報告し合うことになった。
キミはなんとも疲れたような顔をしている。
「えっと……私、理数系は決して嫌いではありませんが、嫌いになりかけました」
「なぜだ、なかなか興味深いことが書かれているはずだが」
「そもそもの概念が、わけわからなくなりました……」
肩を落とし「はは……」と乾いた声で笑う様子は、さながら命が尽きる寸前に鳴いたセミのように見え、少々酷だった。
しかし、こちらはこちらで疲れている。
それに気づいたようにキミが話を振ってきた。
「漫画、どうでしたか? それ私のお気に入りなんです」
「話の流れはだいたいわかった。どうやら主人公のこの女子はこの彼に心を惹かれているようだが、私にはこの男の魅力がわからない。これほどまでに横暴で身勝手な人間のどこに惹かれているんだ」
「それはまあ……私もよくわかりません」
「高校生でこれほどまでに自信をもって女性に接するとは、この男相当の遊び人ではないのか? 性格こそ違うがイッキを彷彿とさせるな」
「……ケントさん、やっぱり漫画の読み方違う……」
お互いに、疲れた顔で本を返した。
ジャンルや作品によって、合う合わないはでてくる、致し方のないことだ。