第5章 キミだけは手放せないな【ケント】
「今日も雨ですね……」
「そうだな……雨の音は心が和むが、昼の電気使用料が増えることは難点の一つだな」
「ふふ、ケントさん、考え方が家庭的になってきましたね」
「そうか? 以前と変わらないと思うが……キミがそう言うならそうなのかもしれないな」
屋根、窓、地面にポツポツと音をたてて雨が降る。
梅雨の時期なのもあり、連日この様だ。
わざわざ雨の日に行く所もなく、家でゆったりと時間を過ごす日々を送っていた。
「ケントさん、今日はケントさんが一番難しいと思う本を貸してください」
「? そんなものを読んでどうする」
「私じゃあ考えつかないことを考えている人の本が読みたい気分なんです」
なかなか妙なことを言い出す……まあいい。
いくつか本を選び、あとはキミが興味のあるものを読んでもらうことにしよう。
しかし、自分が考えつかないことを考える人の本が読みたいとは……その考えはなかった。
「では、私もそうしてみよう」
「分かりました、ケントさんが考えつかないようなことが書いてある本、私なりに探してみます」
数分後、お互い本を数冊もってきたのだが。
キミの持っている本は、私ですら見た目でジャンルがわかる。
「なぜコミックスを持ってきた」
「ケントさん、普段読まないだろうなぁと思って。特に少女漫画は!」
ニコニコとしながら本を寄越してきた。
なぜこんなものを読まなければならないのか。
しかし約束は約束だ。
それに、興味のない分野から得られる情報が大きいことを、これまでキミから教えられた。
一度、読んでみることとしよう。