第5章 見知らぬS型
S型と戦うのは厄介だ。ハッキングを仕掛けられてしまうし、こちらは識別信号で攻撃がままならない。
「僕の事をどれだけ把握しているか知らないが、どちらにしろヨルハの指令部に僕の生存が知れたら拙い。ここでお前を殺してもいいが、処理が面倒だ。だから黙っておけ」
「拒否:無断での部隊の離脱は違反行為に値す……」
『ポッド、ちょっと黙ってて。』
後ろから付いてきたポッド107の返事を10Dが途中で遮る。
『分かった。……この事は秘密にしておく。でも私を逃がすなら、そっちの12Sも一緒で良かったんじゃない?。君が生きてない証拠みたいなものだったのに。』
壊れかけた12Sを指差して聞く。
「デボル、ポポル……君ら、コレを僕だと思って話し掛けたりしただろ?」
「え、えぇ……したわ」
「考えてみたら、あの時の12Sは私達に動揺してたな……」
旧12Sの質問に少し怯えた様子で双子が返した。
「ほらな、それなら生かしててもバレるだけだ。コレと僕の思考能力は同じだからどうなるか分かるんだ。少し冷静に考える時間があればほぼ正解に近い状況を仮定できる。僕と対面させずに逃がしてもすぐ推理して真実に辿り着くだろう」
『私みたいに黙らせるのはダメだった?。口は堅くないの?。』
「あぁ、確実に告げ口をするだろう。僕自身そうだ。他者の不正は問答無用で上に報告する。だから生かしておけない」
そう言ってもう一度武器を振り下ろし12Sの胸を刺す。
漏れ出たオイルがソファを伝い落ち、床に広がった。
10Dは二の句を告げられぬままその様子を眺める。
「報告:ブラックボックスの停止を確認」
ポッド085の言葉で旧12Sは武器を引き抜き、愛しげにポッド085の本体に顔を擦り寄せた。
「ポッド、これからは仕事なんて忘れて僕と過ごそう。デボルとポポルと一緒に楽しく自由に生きよう」
「拒否:当機の随行支援対象は今刺し殺された12Sである為、旧義体の勧誘には応じられない」
「そうか……じゃあ要らないな」
つれない返事を聞き、言葉と共にポッド085を12Sの上に放り捨てる。そしてそのまま12Sと同様に刺し壊した。
あまりの切り換えの早さに唖然とした10Dだが、すぐ我に返り自身の背後にポッド107を隠すように立った。
旧12Sの仕打ちにデボルとポポルも引き気味なようで、テーブルの向こう側で震えながら身を寄せ合っている。