第5章 見知らぬS型
ほんの数秒間の長い膠着状態が続き、部屋は奇妙な静けさで包まれる。
デボルとポポルの出方次第で対応が変わる。
双子は武器を手放しているから幸いにも10Dとポッド107に分があった。
「お前も5Bと同じか?」
「負傷もあなたが12Sを捕らえるために攻撃したからじゃないの?」
「やり過ぎたから私らの所に来たわけか」
「12Sが直ったら連れていこうって言うのね」
距離がどんどん詰まり、ベッド上で壁際に追い詰められる。
弁解する余裕もなく、にじり寄る双子にたじろぐ。
『…………っ。』
伸ばされた手にびくつき咄嗟に背の小剣の柄に手を掛けた。
「何してるんだ」
不意に背後から掛けられた声にデボルとポポルが反応し振り返る。
声の主である12Sが目の前に立っていた。
「12Sったら駄目じゃない。まだ寝てなきゃ」
ポポルが駆け寄り、12Sをソファに戻そうとする。
「あら……あなた、服まで元通りにした覚えはないのだけど。デボルがしてあげたの?」
「いや、私はやってない。……ていうか、左足付けたばっかりで歩ける筈ないし、しかも落とした筈の泥とか埃がまた付いてるのは何でなんだ」
デボルも近付き、12Sの姿を確かめる。
「ところで……居間のアレは何のつもりだ?」
その言葉で双子の表情が訝しげなものから凍りついたものに変わった。
揃って慌ただしく隣の部屋のソファへ走っていく。
遅れて10Dがベッドから立ち上がる。
「お前が持ってきたのか」
『え……そうだけど。まさか君が居るとは思わなかった。』
睨むように見つめる旧12Sに10Dは不穏なものを感じた。
やはり此処に留まっているのは都合の悪い理由があるからと考えて間違いは無さそうだ。
「丁度良い、ポッドが恋しかった頃だ。これを機に返してもらおう」
そう呟くと、隣の部屋へ歩いていく。
ソファには12Sが休眠状態で寝かされていた。その傍らにポッド085が待機している。
戸惑っているデボルとポポルを押し退け、旧12Sはポッド085を抱き寄せる。
「ポッド、僕だよ。ごめんな。今まで寂しかっただろ」
言いながら武器を振り上げ、12Sに突き刺した。
『…………!。』
止めようと駆け寄ると、旧12Sが手をこちらに向ける。ハッキングの構えだ。
「お前、10Dだろ。残りの義体はあと数える程しかないんだってな? 僕のこと黙っててくれるなら見逃してやってもいい」