第5章 見知らぬS型
落ちたものは壊れた。壊れたものは誰であろうととも元通りにすることは出来ない。
『どんなに地位が高くても不可能があることとか、形ある物の儚さを表現してる……みたいな感じ?。』
「報告:当機はこの詩についての答えを持っていない。……強いて云うならばハンプティを卵に置き換える」
ポッド107がチカチカと光りながら返す。
『たまご?。』
「報告:主に日照地帯で見られる鳥類、爬虫類、両生類などの生き物が子孫繁栄の為に産み落とすもの。多くは白い球状。生まれるまでの子を守る甲殻である」
資料として見せた画像は鶏の卵だった。割れて中からドロリとした黄色と透明な粘液が漏れ出ている。
『断面が薄くて脆そう……。』
ふーん、と唸りながら10Dは本を閉じた。
『……まぁ、いいや。本はやめる。暫く寝て過ごそう。』
本を棚に戻してから、双子のどちらかのベッドに寝転がる。
緩みきったベッドのバネが揺れ、ギシギシと嫌な音を立てた。
壊れたものは元に戻せない。
先程の詩の内容と何となく思い出す。
次に挿し絵と駅廃墟の機械生命体と重ね合わせた。
10Dにとって特別な機械生命体。同じ型の機体はいくらでもあるけれど、パーソナリティに関しては唯一無二だ。
あの機械生命体が死んだら、同じ自我を持った機械生命体には2度と出会うことはない。
更に考え、10Dは自身についても考える。
ヨルハ部隊員は替えの義体とログデータのおかげで何度でも同じ個体として復活できるが、結局機体が壊れていることは変わらぬ事実だ。
長いことデータの更新をしないまま死んだら過去の自分に戻ることになり、それまで手に入れた情報や経験が失われる分ある程度変化した人格も退廃してしまう。
壊され消えた自身の人柄もまた唯一無二。同じ自我データと同じ型番の義体だからといって、また同じ成長をするとは限らない。
死んでしまえば、壊れてしまえば、もう同じものは手に入らないことになる。結局は脆い。
『(14Oは私が死ぬ度に困惑しただろうな……他の隊員達だって多分みんな同じ経験をしてるはず)。』
出来事を共有した筈の片方は思い出を持っていない、というのは寂しいことなのかもしれない。
喜びも悲しみも憂いも愛憎も分け合えないなら虚しさに変わってしまう。
『たまごと私や機械生命体は一緒なのかな……。』
「回答:世界中の全てが当てはまる」