第5章 見知らぬS型
12Sの少し驚いた声が背中から聞こえる。
『無事だったんだね、良かった。』
声を掛けながら近寄ると、隠れるように壁の向こうに引っ込んでしまった。
『……どうしたの?。』
機械生命体の居る場所を覗き込む。足元では本を持った機械生命体がこちらを見上げていた。
探していた機械生命体の他にも生き残りが何体か居るようで、奥へと数体逃げていく姿が見える。
「オネーチャンノ家族ガ、ボクノ家族ヲミンナ殺シチャッタノ?」
寂しげな喋り方だった。
10Dは先程ホームで見た機械生命体達の残骸を思い出す。
「ボク達ヲ殺スタメニ、オネーチャンノ家族ハ来テタノ?」
『それは………そう、じゃない、けど。』
口ごもる。過程も結果も凄惨だった。
言い訳なんて意味を成さないだろう。
『ごめん……。全員助けたかったけど、無理だった。』
俯きながら謝る。
『も……もう、ここには来ない。これからはヨルハの仲間にも君らの存在は伝えたりはしないよ。私のせいで、危険な目に遭わせちゃったから……。』
無事だったことばかり喜んで、相手がどう思っているかなんてことは露ほども考えていなかった。
きっと憎んでいるはずだ。顔も合わせたくない程に嫌っているはずだ。
「……ホームノ下デモ、オネーチャンノ声、聞コエテタ。ヤメテ、殺サナイデッテ。ミンナノ悲鳴ガシタトキ怖クテ動ケナカッタケド、オネーチャンガ助ケテクレルンダッテ思エタ。オネーチャンノ家族ハ酷イコトシタケド、オネーチャンハボクノ家族ヲ庇オウトシテタカラ」
機械生命体が右手で10Dのスカートの裾を控えめに引っ張る。
「オネーチャンノ家族ノシタコトハ許セナイケド、オネーチャンハ違ウ」
『でも……。』
「ボクト残リノ家族ダケジャ寂シイカラ、マタ遊ビニ来テネ?」
機械生命体がスカートを放し、前屈みの10Dの顔に手を伸ばす。
『………ありがとう。……ごめん。』
頬に添えられた手から逃れるように姿勢を正し、機械生命体を見下ろした。
『……もう、行くね。』
ばつの悪い面持ちで改札の方へ歩いていく。
「オネーチャン、マタネーッ」
『じゃあね……。』
背後から掛けられる声に控えめに振り向いて、小さく手を振る。
許されたことが逆に辛い。
でも恨まれ怒りをぶつけられても落ち込むだろう。
階段を降りながら10Dが溜め息を吐いた。
何をされてもどのみち納得のいく再会にはならないわけだ。