第3章 平和主義者
コアを取りに行く最中のポッド107との会話を思い出した。
――全ての機械生命体の自我データが平穏を求めているとは限らないもんね。でもそんなことはやってみなきゃ分からないじゃん。走れば良いし、そうでなければ壊すよ。
自分は確かにそう言っていた。
『そうだ……自分で壊さなきゃ。』
物陰に隠れさせた機械生命体から離れて、E型2機の近くまで行く。
『6Eか22E、論理ウイルスワクチンの用意をお願いします。』
「は? ちょっと待て、まさかお前……」
列車の機械生命体になるべく近寄ろうと走る10DをE型が引き止めようとするが、10Dは振り返りもせず機械生命体に掌を向けた。
グンッと引き寄せられるような鈍い感覚が義体に走る。
セルフハッキングとは違う、雑踏の中を歩くかのような窮屈な不快感を覚えた。
スキャナータイプよりも内部のプロテクトが弱い為、攻撃を受けながら進むしかなさそうだ。
『(何がどうなってるのか分からない……。とにかく核らしいものを手当たり次第壊していこう)。』
弾幕を避け、障害となる回路を破壊していく。
重要そうなものから狙い、少しでも影響を与えようと闇雲に攻撃する。
2、3個壊したところで突然限界が訪れた。
近くで大きな音がする。
何かに強く弾かれたような衝撃で10Dはハッキングモードから強制的に解除された。
音のした方を確認すると、そこには頭上を飛んでいた筈の列車の機械生命体が墜落していた。
ホームから十数メートル離れたレールの上で横転している。
その好機を逃さず、E型の1機が武器を手に走っていくのが見えた。
どうやらハッキングは成功したようだ。これなら、後は別のヨルハ達が倒してくれることだろう。
『ヨ……よかッタ………。』
ふと違和感を覚える。
『(あぁ……これが論理ウイルスの症状なのか……)。』
薄れていく自我を他人事のように思いながら、いつの間にかノイズが混ざってしまった視覚センサーを遮断する。
音も視界もよく分からなくなってしまった。ウイルスのワクチンを頼んだE型はどうしたのかな。
義体と思考が剥離してしまったように、まるで体が云うことを聞かない。
痛みも温度も何にも感じない。何にも聞こえないし、何にも見えない。
10Dは傍らに居る筈のポッド107を探したが、もはや気配すら捉えられなかった。