第3章 平和主義者
『えっと……機械生命体にも私達のように個体差がありまして、この子は特に明るくて元気な個体なんですよ。他にも穏やかだったり、いたずらっ子だったり、慎ましやかだったりと様々なタイプが居ます。言語能力に関しては私達アンドロイドより語彙が劣っている個体も少なくはないので、どうかご了承ください。』
緊張で関節の駆動がどうにかなりそうだ。
自分だけが察知している張り詰めた空気に、寧ろこちらの言語能力が著しく下がってしまいかねない。
ギクシャクしながら駄弁を続ける10Dを、リーダー格のE型が掌で押し退ける。
「我々はお前の調査報告を聞きに来たんじゃない。大人しく座っていろ」
『でも……っ。』
「何だ、疚しいことでもあるのか? お前が指揮を執らないといけないことでもあるというのか。これ以上調査の邪魔をするのならば命令違反の罪で始末するぞ、D型」
尋常ではない剣幕で凄まれ、返す言葉が無くなった10Dは直ぐ様口を閉じた。
「分かったなら、さっさとあっちへ行くんだ」
手で追い払われた10Dは肩を落としながらヨルハ隊員と機械生命体達から距離を取る。
『……はぁ、気が重い。』
せっかく友好関係を築き始めることが出来た機械生命体が危険に晒されていることも、ヨルハ隊員にD型風情と扱われることも、ほぼ同格なのに敬語を無理して使っている自分にも嫌気が刺す。
ポッド107の本体に頭を寄せながら10Dが項垂れた。
『ポッド、どうしよう………やっぱり私が間に入ってた方が良かったのかな……。』
「推奨:なるべく黙って穏便に事を済ませる」
『そっかぁ……それもそうだね。』
変に騒ぎ立てても疑われるだけだろう。
今までも特に何も無かったんだ。何もしなければ何も起こらないはず。
確かにポッド107のアドバイスは納得出来る、と10Dはヨルハ隊員の様子を窺いながら座り込む。
『あーあ、早く終わらないかなぁ。バンカーに戻りたくなった時に限って面倒事がある気がする。』
「推測:気のせい」
何やらヨルハ隊員が各々機械生命体に囲まれながらやり取りをしている。
声は聞こえるが離れているせいで何を言っているのかは理解出来ない。
まぁ今のところ問題はないだろう。そう思いながらも、もしもの時の為にいつでも立ち上がって武器を取れるような体勢で座り緊急事態に備えた。
