第3章 平和主義者
列車は無数の脚をガクガク動かしながらゆっくり前後に進んだり退いたりする。
「ア"……ア"ア"ア"ア"………ア"ア"………」
体の色んな部位を軋ませながら動く姿は何だか不気味な印象だった。
起動したのはついさっきなのに、まるで壊れる寸前のような状態なのだからそう感じるのだろう。
アンドロイドで言えばロールアップして与えられた義体が使い古しのボロボロだったなんて状況とほぼ同じだ。
いずれにしろ機械生命体の機体なんてどれも錆びてるから何とかなるだろう、と10Dは気にしないことにした。
煙も噴けないし汽笛も鳴らせない。でも皆満足しているのだ。取り敢えず問題なく動いたことを喜んでおこう。
『そう言えば、あと何時間かした後に私の仲間が来るんだ。その時はよろしくね。』
「ナカマ? ナカマッテ何?」
『え……仲間知らないんだ。君らみたいな集団と同じかな?。』
集まって同じ目的を果たそうとしている訳だから、ほぼ同類だ。
「ジャア、家族ダネ! オネーチャンノ家族来ルノタノシミ!」
声を弾ませる機械生命体の言葉を聞き、今度は10Dが疑問を浮かべる。
『……かぞく?。』
「報告:家族とは、夫婦とその血縁関係者を中心に構成され、共同生活の単位となる集団のことである」
人類のデータベースから見つけたものを何も捻らず述べるポッド107。
10Dはあまり理解出来ずに更に首を傾げた。
『確かに集団で共同生活をしてるのが大半だし、血……っていうかオイルは同じものを使ってるだろうけど、ポッドの言う家族はアンドロイドとも機械生命体とも違うよ。』
どちらかと言えば、機械側は1つの木に茂る枝葉の集まりのような存在である気がする。
「報告:家族とは様々な状況でも成立し得るものであるらしい。推測:機械が人類や他生物への憧れを抱いて模倣している」
『模倣……そう言えば、ヨルハの中にもパートナーとの関係を深くしたがる仲間は何人か居たね。真似だけで何か満たされるのかな。』
親しみのある名前を考え呼ばせようとする者、体に手を這わせ抱き付き合う者、情報交換とは関係のない言葉を囁き合う者と様々だ。
感情を出すことは禁止だと表向きは皆守っているが、他者の目の届かない所に行けば好き放題出来る。忠実に守る奴なんてほぼ居ない。