第3章 平和主義者
薄暗い部屋に戻り、また作業を始める。
ヒルマイナが持ち出した金ヤスリで尖った部分を少しずつ削っていく。
気を付けないと大事な箇所も一緒に削り取ってしまうから慎重に進めていた。
手元を照らすポッド107も、なるべく10Dを刺激しないように振る舞う。
2機共おし黙ったままで、部屋の中にはヤスリで錆びた金属を削る音しかしていなかった。
ある程度削っては指で擦り、感触を確かめる。
プレゼントした物で14Oが怪我をしてしまっては元も子もない。
なるべく尖った部分を無くさなくては、と10Dは休む暇もなく手を動かした。
何度も何度も同じ動作を繰返し、出来る限り引っ掛かりの無い断面にしていく。
やがて文句の付けようもないくらい綺麗に仕上がった頃、部屋に誰かが訪ねてきた。
「入るよ」
ドア越しから聞こえるのは馴染みのある声だ。今手に持っている工具の持ち主だろう。
『プラヴァ、おかえりー。工具勝手に借りちゃってごめんね。』
金ヤスリを軽く振りながらプラヴァを迎え入れる。
「ヒルマイナから聞いた。何か変なものを作っているらしいな」
『うん、プラヴァの工具のおかげでしっかり削れたよ。すごくキレイになった。』
ありがとう、と10Dはプラヴァに金ヤスリを返す。
「あぁ。それは……見慣れない形だが何なんだ?」
『花の形を真似したんだ。夜の地帯で咲ける花なんて本当に稀少で、咲いてても暗くて気付けないから見たことないのが大半だろうし、知らなくても仕方ないけどね。』
「花か……。私が文献で見たのはもっと平たくて放射状に伸びているものだったが、そんな形状のものもあるんだな」
プラヴァに実際の画像を見せた。
10Dは目当ての花に似せて造ることが出来たことを改めて確認し、得意気に画像と金属製の花を並べてみせる。
「推奨:バンカーに戻り、14Oへの贈与を完了させる」
善は急げ、とポッドが誘導した。
「そうだね。早めに渡しとこう」
金属製の花をポシェットに大事にしまい込み、立ち上がった。
『じゃあもう行くね、プラヴァ。協力ありがとう。』
「あぁ、工具が必要になったらまた貸し出してやる。じゃあな」
プラヴァと別れ、レジスタンスキャンプの外に出る。
飛行ユニットを呼ぼうと端末を出した時、バンカーから通信が入った。