第3章 平和主義者
『よし、完成!。……かな?。』
「報告:似てない」
『だって~……。』
製作物を自他ともに似いてないと感じている原因は明確だった。花弁の部分に使用した金属板が思いの外硬くて10Dやポッド107の力では曲がらなかったのだ。
辛うじて切断は可能だったが断面はボロボロで、作っている途中に何度か指の人工皮膚を裂いてしまった。
花弁が閉じたままの状態の品を持って外に出る。
プラヴァに工具でも借りようかと考えたが、外出中のようでキャンプ内の何処にも見当たらなかった。
「よぉ! 何うろうろしてんだ?」
『あ、ヒルマイナ。』
少し離れた場所からヒルマイナが近寄ってきた。
「その茶色いの何?」
「報告:錆」
「いやそうじゃなくって!」
10Dの持つ製作物を指差す。
『花……のはずなんだけど、金属板が上手く曲がらなくって。曲げられる工具を貸してもらおうと思ってプラヴァを探してるんだけど今は居ないみたい。』
「要は……工具でも何でも曲げられりゃ良い訳だな! 貸してみ!」
サッとヒルマイナが10Dの手から茶色いのを取ると、金属板の蕾を強引に広げようとした。
「あ、これなら曲げられそう」
逞しく作られている男性型アンドロイドなだけあって、ヒルマイナは余裕のある調子で言った。
『あっ、待ってヒルマイナ。ちゃんとした見本を見せるから、それの通りに曲げてみて。』
「任せろ~ッ!」
画像を覗き込みながら似たような曲線を作っていく。
意外にも器用だ、と10Dは少し驚いた様子でヒルマイナの手元を凝視した。
「……よしっ、こんなもんだろ!」
『ありがとう。よく出来たね。』
「錆が酷いから割れるかと思って何度もヒヤヒヤしたぜ!」
そう言うもあっけらかんに笑いながら10Dに花の形になったものを渡した。
「……ちょっと指先が荒れたな。10D、端のギザギザを無くさないと怪我しちまうぞ! プラヴァの工具に金ヤスリもあった筈だから、俺が取って来る!」
赤茶色の鉄屑が所々に刺さった自身の手を見るや否や、ヒルマイナは倉庫に向かって走り出した。
プラヴァからの承諾を得ずに持ち出してもいいのかと10Dはやや躊躇する。
だがヒルマイナがあっという間に持ってきてくれたのと本人が不在でいつ帰るか分からない状況からその躊躇いも消え、プラヴァが戻ってきたら返す時に一言添えようとだけ思って金ヤスリを使うことにした。
