第3章 平和主義者
『うん、わかった。……そもそもどうして列車なんて造ってるの?。』
帰ろうとはしたものの、好奇心が疼き10Dは訊きながら機械生命体に近寄った。
「アノ……ソレハデスネ……」
向かってくる10Dに後退りしながらも機械生命体は答えようとする。
「格好良カッタカラ、ダヨ!」
10Dの背後から別の機械生命体の声がした。
振り返って見ると、その機械生命体は古びた本を開いた状態で持っていた。
そのページには蒸気機関車らしきイラストが載っていて、今入っている列車とは似ても似つかぬ程立派な造形をしている。
「ドウヤッテ動クノカ分カラナイケド、スゴく速ク走レルンダッテ書イテアル。ソレニ"煙ヲ噴イテ汽笛ヲ鳴らし、ガタゴト揺レテ何処マデモ"ッテ。コレ完成シタラ、キット楽シイ! ミンナ喜ブ!」
「ダカラ造ッテルノ!」と本を見せつけながら機械生命体がはしゃぐ。
警戒心のない個体だな、と思いながら10Dは本を受け取った。
本はかなりボロボロで、大部分が滲んだり破けたりしていて小汚ないが、原型を留めている時点でかなり保存状態が良い。
『動かす方法ねぇ……これには載ってないのかな。』
ペラペラと捲りながらそれらしき項目を探す。
『ポッド、人類のデータベースに何か情報はある?。』
「報告:蒸気機関及び蒸気機関車の仕組みに関するデータはあるが、このハリボテに応用できるものではない」
ふーん、と頷きながら10Dは捲っていた本を閉じる。
『例えば?。』
「回答:蒸気機関車の主流であれば、可燃性の資材を燃やしボイラーで作った高圧の水蒸気をシリンダーという筒に送り込んでピストン運動をさせる方法がある。ポッド107にもこれらのデータの理解は難解で、構造についてはより詳しく解析する必要がある。」
「燃ヤシちゃウンデスか?」
「壊レテシマウナ……」
「火、コワい!」
周りに機械生命体が集まる。
皆一様に列車を動かすヒントを聞こうと興味津々だ。
『本当に熱なんかで動くの……?。』
「回答:多量の水と燃料を燃やして発生した火、熱で水蒸気が出来る。それを実用性のある熱エネルギーに変換する為にこのような仕組みが設けられている。動く原理を風で例えると、よそ風程度では軽い物を揺らすことしか出来ないが、災害にも等しい強風であれば大きな重い物でも吹き飛ばすことが可能である事と同義」