第3章 平和主義者
10Dが列車と思わしき製造物に目を向けた。
錆びかけた金属板がツギハギのように外側を覆っている。模様も付けたかったらしく、鉄筋を短くしたものを沢山貼りシンボルマークのような形にしていた。
おまけに最前に煙突が生えていて、何とも珍妙だ。
『これが列車……。』
「報告:形状からして、列車の歴史の中でも最初の方に生まれたモデルの蒸気機関車に近い」
『蒸気?。電気やガスで動かせばいいのにね。』
ただの煙がどうやってこんな大きな物を動かすんだ、と10Dは不思議に思った。
「報告:蒸気機関車が作られた当初、動力の主流は蒸気機関であり電気やガスで走る列車の実用は可能ではなかった。やがて技術の発展に伴い燃料や形状を変え、長距離を短時間で移動できるようになっていったとある」
『ふーん……とりあえず、中に入ってみようか。』
縦長の穴が入り口らしい。機械生命体達ももれなくそこから入っていった。
10Dは奇襲の可能性も考え、車内に武器の先端だけを入れ雑に小さく振る。
すると内部の少し離れた所から怯えたような声が聞こえた。
どうやら入り口付近には何も居ないらしい。
奇襲はない、と安心して10Dは入る。
床を踏むとギシッと軋む音がした。どうやらあまり耐久性の無い金属板を何重かに重ね合わせて造っているようだ。
金属板同士の間が少し浮いているようで、抜けやしないかと警戒する。
ギシ……ベコンッ……と耳障りな音を聞きながら先へと進む。
ポッドがライトで一番奥を照らした。
車内と同じ色をした機械生命体達が団子になって震えている。
互いの手を取り合うもの。頭を抱えて何も見ないようにするもの。
私に恐怖している……機械生命体みたいな破壊兵器にもそんな感情があるんだな、と10Dは同じ破壊兵器ながらに思った。
痛覚や恐怖は危機回避の為にある。けれどアンドロイドと違い、幾らでも生産出来る機械生命体なら特攻する戦法の方がいいから、恐怖なんて要らないのではないか。
少しずつ近付く度に、機械生命体達の震える姿が鮮明になっていく。
「コ……コロサナイデクレ……」
「死にタクナイ、死ニタクなイヨォ……」
「オ願イ……助ケテ……!」
声もはっきり聞こえ始める。何を言っているのかもよく分かる。
命乞いだ。
殺されたくない。死にたくない。助けてほしい。
『……………。』
10Dは機械生命体達の数メートル手前で立ち止まった。