第2章 壊された電灯
『な……なんか、イヤーカフから出てきた……。』
10Dがポッド107に見せようと手を退かした。
「報告:耳に差し込む為の隙間だった部分から針のような細い金属が数本出て耳たぶを貫き、イヤーカフを繋げている。人類データにある耳飾り"ピアス"の構造と類似」
痛がる10Dにポッド107が淡々と答える。
『痛いのに、外せない……。』
「推奨:装着の続行。イヤーカフの装着は司令官からの命令である。推測:痛みは一時的なもので、やがて治まる」
『……………。』
司令官からの命令と聞いて、10Dは諦めてゴーグルを頭に結んだ。
じわじわと続く耳の痛みに耐えながら10Dが部屋を出ると、レジスタンスの一員が駆け寄ってきた。
「10D! 帰ってたんだな、丁度良かった!! さっきリーダーが10Dに頼みたいことがあるって言ってたから! とにかくリーダーの所に行ってあげて!」
「否定:10Dの本拠地はバンカーでありレジスタンスキャンプではない。「帰ってた」という表現は不適切」
「いいじゃないか! キャンプのベッドで寝たことあるなら皆家族だ! なぁ、そうだろ10D!」
大きな声で捲し立てるように男性型アンドロイドが言う。
『ヒルマイナ……。』
相手のテンポに引きながら10Dが男の名前を呼んだ。
「なんだなんだ、機嫌悪そうだな! それとも具合が悪いのか? 人類の女は1ヶ月に1度は精神不安定になりやすい時期があるってデータで見たけど、もしかしてアンドロイドの女型もそんなのがあるのか? どっか痛いところあんなら俺が診てやるから、いつでも頼れよ!」
『…………。』
10Dはヒルマイナの言葉にイヤーカフに手をやりそうになるが、痛みよりも掛けられる声の方をより鬱陶しく感じたため無視してさっさと離れることにした。
「じゃあな10D! ちゃんとリーダーの所に行くんだぞー!!じゃないと、伝言を頼まれた俺が叱られるんだからなー!」
背後でヒルマイナが叫ぶ。いつもに増して大きな声だから多分リーダーであるアイビスの耳にも届いてしまっているだろう。
10Dは耳をそっと擦りながらリーダーの部屋に入った。
『アイビス、来たよ。』
「あぁ、ご苦労。すまないな……ヒルマイナが煩かったろう」
煩いからヒルマイナと名付けたのか、ヒルマイナと名付けたから煩くなったのか……とアイビスが冗談のような口調で呟いた。