第5章 見知らぬS型
「報告:道を間違えている」
ゴーグルに道標を出したにも係わらず駅から遠ざかる10Dにポッド107が声を掛けた。
『あ……うん、こっちかぁ。』
ぼんやりとしながら方向を変え、矢印を追いかけて歩く。
12Sを助けられなかったのは残念だったけれど、それよりも旧12Sのことが衝撃的で悲観には及ばなかった。
今頃バンカーで新しい12Sが準備されている所だろうか?
取り敢えず14Oに任務達成の報告をしなければ。
水族館廃墟から出てかなりの時間が経っている。あと何故12Sがロストした場所が任務と関係の無い地区なのか聞かれるだろう。
通信で終わらせるべきか、直接報告に行くべきか。
旧12Sの事も黙っておかないといけない。約束しなければ面倒な嘘を考えずに済んだのだろうけど、そうしないと自分が殺されていたのだ。仕方がない。
色々考えながら進み、とうとう飛行ユニットが待機している場所まで来てしまった。
『…………。』
「推奨:バンカーへ戻る」
『うん……。』
別に絶対に戻らなくてはならない訳ではないが、端末越しにちゃんと話せる気がしない上、10Dはメンテナンスが必要な程度の軽傷を負っていた。バンカーへ帰還した方が良い状況だった。
2機が飛行ユニットに乗り込み離陸する。
星空に向かって上昇を続ける最中、ポッド107が10Dに報告を行った。
「報告:14Oに向け、先ほどの旧義体の12Sとの会話の映像データを送信した」
『えっ……?。送ったの!?。』
薄い雲の間をすり抜けながら10Dが驚いて声を上げる。
『どうして?。言わないって約束したのに……。』
「推奨:司令官に包み隠さず報告する。推測:12Sの件はいずれバレてしまう可能性があり、その場合は黙認した10Dも共犯者として処分される確率が高い。それに脅しで交わさせられた口約束をわざわざ守る必要もない。隠し通したところで、10Dのメリットはゼロである」
約束を守る事がいつでも正しいとは限らない、とポッド107が諫める。情報処理能力もそんなに良くない10Dは冷静な判断が出来ていない中、浅はかにも「取り敢えず約束は守ろう」と考えてしまった。
自ら危険な状況に陥ろうとしている。成り行きで違反行為に及ぶ前に10Dを裏切り者の告発者に仕立て上げようと思い、ポッド107は独断で映像をバンカーへ送ったのだった。